武神の遺産と一族(2)
「……………………」
予想外に黙りこくってしまった知有に、和希は焦った。
しまった。
しっかりしているように見えても小学5年生だ。
家のなかのこと、親のことを、割りきって話せるような気持ちにはなれなくて当然だ。
自分のこどもの頃の経験ゆえに、家族関係の破綻に慣れきった和希が、自分の麻痺した感覚で軽く聞いてはいけなかった。
「あの、家主さん、その…………」
知有は知有なりの苦労をしているはずだ。
配慮の足りない聞き方をしてしまった自分に後悔しながら、言わなくても良いのだと伝える言葉を考えていると。
「おはようございます!!」
まったく空気を読まないタイミングで道場の引き戸を開け、元気な挨拶をしてくる奴がいた。
男にしては明るく響く、そして剣道で鍛えられた声。
「……おはよう、慶史」
四尺棒いりのケースを背中に背負った、真面目そうな優しげな顔立ちのメガネの少年に、和希は声をかける。
和希と一番仲が良い、一年下の後輩の今井慶史だ。
知有のお気に入りでもあり、ちょくちょく、この上泉邸にも遊びに来る。
「えっと……2人とも、雑巾がけ中ですね。
じゃあ、俺も」
ナイス慶史。話を切り替えてくれた。
これで先程の話は一旦、流せる。よかった。
「いや、いい」
「??」
知有は雑巾を畳んだ。
「慶史。いまちょうど、和希に言われたんだ。
家のことを教えてくれ、って。
たしかに、なにも言わずに和希にここにいてくれというのは、虫がいい話だった」
「いや、大丈夫ですよ家主さん?」
一応補足してみたが、どうも知有は話す気になっているのらしい。いいから、と、和希の手からも、雑巾をとりあげた。
「2人とも、ちょっと、ついてきてくれないか?」
雑巾を部屋の隅のバケツにかけると、知有はそう声をかけて、道場を出た。




