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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第4話 アイドルの殺傷力偏差値
54/145

アイドルの殺傷力偏差値(17)



「俺の体に、先にさわったほうが勝ちだよーー!!」



 木々の間の向こうに、大文字の「大」の字の、交点の火床の上で、ばんざいしてジャンプする新橋が見える。

 最後の石段坂は比較的なだらかで、和希とIoRi(イオリ)はひたすら走る。

 大ファンを標榜する新橋がいるからか、IoRi(イオリ)も体当たりなどせず、ただただ走る。


 ほぼ横並びのデッドヒート。


 ぱっと木々を抜けたら、新橋まであと、数メートル。


 ……と、いうところで。



「!!」



 IoRi(イオリ)が和希の横を抜けて前へ出た。


 最後の最後に、残していた力があったのか。


 IoRi(イオリ)の手が、新橋の胴に伸びる。

 和希は地面を蹴った。

 思い切り、IoRi(イオリ)の肩に手をついて、跳んだ。


 IoRi(イオリ)の頭上に上体ごと乗っかりながら手を伸ばし、ばんざいしている新橋の手を、


バシン、


と打ったのだった。



 新橋は一瞬驚いた顔をして、それから、うん、とうなずいて叫んだ。




「勝者、さんじょーーーかずきーーー!!!」




 その叫び声と同時に、和希とIoRi(イオリ)は、火床の上に崩れ落ちた。


 和希は大の字になり、IoRi(イオリ)はややうつ伏せで。

 ただただ、呼吸して、呼吸して、呼吸して、目を閉じた。

 どうにか、勝った、という事実が頭から追い出されるほどに、消耗していた。



「ああ、IoRi(イオリ)さん大丈夫ですか!?

 服とか髪に土がすごいついてます…」



 心配げに新橋がIoRi(イオリ)に寄り添う。



「大丈夫、転んじゃっただけ」


 えへ、とファン用に笑って見せるIoRi(イオリ)と、「か、かわいい……」と顔に血がのぼっている新橋を横目に、和希は深く深く息をついた。


 勝てん。


と、思った。


 競走の勝敗は、和希の勝ちだった。

 だが、終始ずっとIoRi (イオリ)のペースだった。

 勝ちすらIoRi(イオリ)は目的としていなかった気がする。

 ただ、楽しみたかった。闘いという生きる喜びを味わいたかった。

 それが彼女の望みなら、和希は最初から最後まで、その手のひらの上なのだ。


 何か言いたいことがあったはずなのに。

 頭のなかはもうからっぽだ。



「……動けますか、IoRi(イオリ)さん」



 大の字のまま、天を仰ぎながら、和希はIoRi(イオリ)に声をかけた。



「うん、あと少しなら」



 IoRi(イオリ)は和希より少し早く、体を起こす。

 上着のなかに手を引っ込める。

 すぐに、ぱたぱた、と背中のほうのなにかを外す音が聞こえて。


 からららっ……と音を立てて、四本の細い竹が服のなかから落ちてきた。



「上着の中に……?」



 まだ武器を隠していたのか。全然気づかなかった。

 和希はまだ横たわったまま、周到なIoRi(イオリ)の準備に呆れた。


 細い竹には、一本の紐が通っていて、その紐を、パッと引いて片端を留め具で固定すると、4尺を少し越えた長さの棒が出来上がった。


「え? なに、どうしたの?」


「新橋さん」



 ギリギリまで寝休んで、体を跳ね起こした和希は、新橋に声をかけた。

 気配は、大体把握した。

 敵はこちらにかかるタイミングを狙っている。



「すみません。

 ちょっと危ない連中がいるんで、怪我しないよう少し下がってて頂けますか?」


「ええー、って、また三条を狙ってきた連中?

 ちょっと、IoRi(イオリ)選手を巻き込んで怪我させないでよ? すみません本当うちの後輩が……」



 和希としては不本意きわまりないが、新橋は都合よく適当に解釈してくれたようだ。



 こちらが敵の存在を把握していることに気づいたか、奇襲はしてこずに、敵はおもむろに、姿を表し始めた。


 ひいふうみい……5人。

 先程の、荒事用に雇ったと思われる面々とは異なる、しぶい表情の男たち。細かったり太かったり、体型から見て、本来闘う連中ではなさそうだ。

 なるほど、こちらが指揮していた側と見える。

 



 和希が前に出る。

 IoRi(イオリ)は一歩引いた位置で棒を構えている。

 ファンの前なのでやはり多少は遠慮か?

 後ろに陣取って、ファンたる新橋を守るというポジション取りか。



 いたしかたない。

 余力はない。とっとと片付ける。


 力を使いきった残りかすの体で、和希は駆け出した。

 走る勢いのまま前蹴りで1人ふっとばす。その蹴り足を軸に、2人目にぐりんと上からあびせ蹴りを落とす。そうして転がりながら3人目を水面蹴り。倒れたところに、みぞおちに下段突きを突きこんで3人クリア。


 後ろを振り返ると、IoRi(イオリ)が棒を縦横に振り回し、2人、らくらくKOしていた。


 とりあえず、決着ということでいいだろう。

 和希はもう休む、とばかりに座り込んだ。



◇◇◇

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