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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第4話 アイドルの殺傷力偏差値
53/145

アイドルの殺傷力偏差値(16)




 上へと続いていく石段は、すれ違えばぶつかりそうなほどに細い。


 まっすぐ伸びていくその先はまだ見えない。

 登りきったところで、まだ、うねうねと曲がった道がまっているのだが。

 IoRi(イオリ)はそのことを知っているのかどうなのか。


 しかしそれはいまや、関係ない。


 今、競走をしているのだ。

 戦いを挑まれているから逃げるわけにいかない、というのではない。


 勝負を挑まれている。

 それゆえに、ふざけるなと一言いってはったおすにも、勝ってからでないと、なにも言えないからだ。



 じゃあ、なにが『ふざけるな』なのか?


 迷惑をかけるな、なんて、そんなことじゃない。


 巻き込むな。そんなことじゃない。


 慶史に謝れ? それもちょっとあった気がする。

 でも、もう、それじゃない。


 慶史になにをされるかわからないから?

 あった。それは確かに、あった。

 だけど、もう、理由づけだったと自分でわかっている。

 誰がどう見ても、さっきは鈴鹿が正しかった。

 その正しい鈴鹿を振りきるための。


 どこか余力を残しながら石段を登っていくIoRi(イオリ)を、和希は追い抜いた。



「おお。来た来た」



 嬉しげにペースを上げるIoRi(イオリ)

 悪いが、今は昨日の慶史のように、殺意をご馳走してあげることはできない。

 勝ちたいからだ。

 勝ちたいときには、勝ちたいという感情さえ邪魔だ。

 となりの女に、殺意なんか向けていられない。



 ふふっ、と笑うと、IoRi(イオリ)がこちらにフックを撃ってきた。ガードする。

 下から体当たりしてきた。階段をはみ出して回避する。

 そのかわり和希は、階段に戻るときに、ふくらはぎを踏みつけぎみに蹴ってみる。膝を返されて跳ね返された。

 石段登りながら、少しIoRi(イオリ)の前に出た。

 前に出たことをいいことに、和希は後ろのIoRi(イオリ)の体をひっかけ落とすような蹴りを撃つ。



「うわっ、あぶなっ!」



 落ちかけたらしいIoRi(イオリ)の大声に、笑った。笑っていた。



「バカじゃないんですか?」



 和希は、走りながら叫ぶ。

 人のこと言えないくせに、とは、自分にも内心突っ込みながら。



「敵がいるほうとわかってて、ゴリゴリ体力削って。山を登って。

 しかも!一応味方同士、で、戦って戦力削りながら。

 上に着いたときに襲われたら、終わりですよ。

 あんた、どれだけバカなんですか?」


「何言ってんの!」



 初めて、IoRi(イオリ)が息を切らした気がした。



「好きなことをいまこの瞬間、やっている。

 いま、一番闘いたい相手と闘えている。

 これこそ生きてるってこと、でしょう?

 最高じゃないか」



 IoRi(イオリ)が和希の前に出る。

 しゃべって攻撃して、だいぶそれでエネルギーを使っているくせに、息を弾ませながら、笑う。



「敵がいようが、関係ない。

 敵なんかに、私が生きてることを邪魔させない」



 誰にも自分の邪魔をさせないという、その笑顔は、今までで一番純粋に見えた。



 2人はほぼ同時に、直線の石段を登りきる。



 初めて大文字山に登る人間は、この直線の石段を登りきると目的地なのではと錯覚しがちだが、直線を登りきったところでまだまだ石段は続くのだ。

 今度は、山の斜面に沿ってうねうねと這う石段が。


 ペースは今までよりも落ちるけれど、和希は、足を止めない。


 IoRi(イオリ)も、先ほどのやりとりでだいぶ余力を浪費したようだが、足を止めない。


 そう。ここを登りきるとすぐ、ゴール。


 大文字の「大」の交点が待っている。

 そこで、副部長の新橋が待機中のはず、だ。


 上にいくほどペースが速くなる。

 互いに、となりの女よりも一歩でも速く、と。




「――――――新橋さん」



 視界に入った新橋に、和希は最後の力を振り絞った。



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