アイドルの殺傷力偏差値(14)
(ベタなん来たな!)
網が視界に入った瞬間、和希は地面すれすれをスライディングして逃れようとしたが、目の荒すぎる網が見事に頭や手足に絡み付く。
「うわ。網なんて、つまんない手使うね」
そういう貴女も網にかかっているだろうとIoRiに向けて言おうとすると、IoRiはなんということも無さそうに肘でピシピシと空を切る。
と……ぱらり、と、縄が切れて落ちていくのだ。
「!?」
肘打ちで縄を切った!?と一瞬見まがった。
が、違った。
彼女の上着の両肘から、細い刃物が出ているのだ。
「服に暗器仕込んでるんですか……」
「うんっ」
肘から突き出るキラリと光る刃物を、IoRiは和希に見せる。
前に和希が脇腹を刺されたのは、同じような刃物だったのか?
するりと、IoRiは自分だけ網から抜け出した。
何者かに強く引かれて、網が上に引きずられるなか、和希もどうにか手足関節ひねり引き抜きまくって網から抜け逃げた。
「さすが体、柔らかいね。タコみたい。
私にはできないやソレ」
「ところで、これは貴女の巻き添えですね?」
「ご明察!」
網が上に引きずられる、と思ったら、またぶわりと落ちてきた。
さらに、網がもう一枚。首が余裕で通るぐらいの大きな網目。2枚が手足首を複雑に絡めとる。面倒くさくて厄介だ。
ぶしゅり、ぶしゅりと縄を切り裂いていくIoRiに、体をパズルのように引き抜きながら脱出する和希。
ずり、と網が引き上げられる間一髪、2人は、どうにか地面に逃れる。
曲者は、木の上にいるのか?
「あれか!?」
和希は地面の石を一気に3つ掴むと、散弾銃のように同時に投げた。
距離があったので若干自信が薄かったが、見事にひとつが曲者ひとりの顔面にぶつかって、そいつが木から落ちた。
しっかり命綱がついているので怪我の心配はしないことにする。
「ナイスコントロール!
じゃあ私も」
IoRiは、上着の両のポケットから、なにやらナイフのようなものを引き抜いた。さっきあれだけ動いて体に刺さらなかったということは、鞘も服のなかに仕込まれてるのか?
スローイングナイフというやつであろうか、その2本ともを、同時に両手で投げる。
「痛ッ」「ぎゃぁっ」
それぞれ木の上の不審者の手足に見事に刺さり、2人を木から落とす。
回転しながら飛ぶナイフを同時に、しかも上に向けて投げて2本とも当てるなんて、一体この人、どういう腕をしてるんだろう?
「プロフィールの特技欄に、手裏剣はなかったように思いますけど」
「そうだっけ?
一応手裏剣術の演武大会に出たこともあるんだけど」
「大会があるとか初めて知りました」
そんな会話をのんびりしている場合ではない。
上の連中は木から落ちたが、今度は、山の道なき場所に隠れ潜んでいたと思われた男たちが、ざざっと登山道へとあらわれ出てきたのだ。
囲まれている。7人。
荒事に手慣れた風の、屈強な男たちだ。
本当なら網にとらわれたIoRiをさくっとつれていきたかったところだろう。
こんな市内の平和な山に、まるで往年の時代劇みたいな潜み方を何時からやっていたのか。まったくご苦労なことだ。
「ちなみに、貴女の事務所の関係者ですか?」
「顔見たことないけど、多分ね」
「今日は私が巻き込まれる側ですか」
嘆息する和希。
確かに、これまで和希は何度も慶史を危ないことに巻き込んできたから、そろそろ和希の番が来てもおかしくはない。
むしろ今日は、慶史が安全なところにいて良かった。
そして、彼ら。
IoRiを連れ戻すために、彼らはどうにか機会をうかがっていたのだろうか。どうやって今回の大文字山競走を探りだしたのか気になるが。
あるいは、戦闘狂のIoRIのことだから、半ば想定の上で罠にかかったのか。何となく後者な気もする。
しかしそんなことを言っていても始まらない。
「……突破するしか、ないですね」
その和希の言葉を合図に、2人は山の上への道を封じる男たち向けて、突っ込むように駆け出した。




