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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第4話 アイドルの殺傷力偏差値
49/145

アイドルの殺傷力偏差値(12)




 …………はやいっ!?



 同時にスタートしたIoRi(イオリ)のハイペースに、和希は驚いた。

 多少飛ばしているのか、普通のペースなのか。

 鈴鹿を思わせる足の速さだ。


 こちらの方が背が高いから意味が薄いかもしれないが……と和希は考えながら、IoRi(イオリ)を風よけに使うべく、後ろにつく。

 とはいえ、スタート地点から山登りに至るまでは、ほんの数分だ。


 7月の日差しのなかで、銀閣寺に向かう歩道を走っていると、学生たちとすれ違い追い抜いていく。


 Iori(イオリ)が男女問わず視線を集めている。

 その美貌のせいか芸能人だと気づかれてかはわからないが、競走が終わるまで、騒ぎになどはならなければよいなと思う。


 さすがに5分ハンデがあったからだろう。

 走っても、他の女子らの姿はまだまだ見えてこない。



 IoRi(イオリ)の後ろにピタリとついて走っていると、早々に銀閣寺橋についた。


 ここは、川ではなく琵琶湖疎水にかかる小さな橋で、ここから疎水沿いに『哲学の道』が通っている。


 チラッ、と、IoRi(イオリ)が振り返り和希を見た。

 道を確認したいということか。



「このまま、橋を渡ってください」



 IoRi(イオリ)はうなずき、先に渡っていく。

 そして橋を渡ると、いよいよ銀閣寺の参道。

 土産物屋や、観光客。それらを横目に、走る、走る。


 突き当ったところが、銀閣寺こと慈照寺である。

 説明するまでもない、歴史の教科書にも載っている、室町幕府の8代将軍足利義政が銀閣を作った寺だ。



「ここを左に曲がって、突き当たりの神社のとこを右です」



 声をかけ誘導していると、次第にIoRi(イオリ)と並んだ位置になった。

 まもなく見えてきたのは、山の入り口。


「あれ?」


 山の入り口の、砂利道の上にすわりこんでる1人の女子に、救護担当の慶史が寄り添っている。

 通りすぎざま、和希は慶史に話しかける。


「どうした、慶史?」


「足を捻っちゃったみたいで……

 スプレーで冷やして、とりあえず固定を」


「あらら……。

 そうか、悪いな。上ついたらすぐ降りてくるから」


「もし、山の中でも怪我をしちゃった子がいたら、連絡くださーい」



 走っていく和希の背中に声をかける、慶史の仕事熱心さに感心しながら、和希は、さっさと先に行ったIoRi(イオリ)の背中を追う。


 大文字山の木々に囲まれる。

 山に入った瞬間、何度か温度が下がった気がするほどに涼しい。

 道も走りやすい。

 ただ、梅雨時期だったせいか、若干ぬかるみがあるところもある。


 まもなく和希はIoRi(イオリ)に追いつき、そして、すぐ前に、先行してスタートしていた女子たちも見えてきた。

 さすがに、山を走るという経験はしたことがなかったのであろうか、後輩女子たちは、スタート時とはうってかわって、どうにか普通に歩いて登るのが精一杯な様子。


 競走じゃなかったら、自然を楽しんで登れるのにな。


 結局IoRi(イオリ)と和希はそこで一団を、さくっと追い越した。

 人数を胸のうちで数える。

 怪我をした女の子を入れて、7人。

 登りやすい大文字山とはいえ、山は行方不明者が出ると怖い。

 だから人数は都度しっかり数えることにした。



「今、ふもとに慶史がいるから、怪我したら遠慮なく降りるんだよ!」



 和希はそう、女子の後輩たちに声をかけていく。

 うなずく女子たち。

 へたってるけど、がんばって登ろうとしている。

 山の中腹に待機している先輩もいるので、何かあっても大丈夫ではあろうが……。



「川が流れてるんだね。いい感じ」



 一方、道に沿って流れる小川を珍しげに見ながら、IoRi(イオリ)は走るのをただ楽しんでいる様子だ。



「この辺は、まだまだそんなに登山って感じじゃないですね。

 道も緩やかですし」



 しゃべりながら、2人、後輩女子を追い越す。

 これで9人。


 小さな橋を渡ると、ここまでの緩やかな坂とはうってかわった、木を並べて作られた細い階段坂が待っていた。

 そこを息を切らして登っていた女の子を1人、抜いていく。これで、10人。



「参加してる子はこれで全部抜いた?」



 ふと、前を行くIoRi(イオリ)が、和希に尋ねた。



「前に、あと2人いますね」


「そっかぁ」


 階段坂を登り終えると和希は、ようやくIoRi(イオリ)の前に出た。

 IoRi(イオリ)はすぐ抜き返そうとする様子もなく、山道を2人、走っていく。その中で間もなく、最後の先行していた2人の女子たちも抜いた。


 ほどなくして、待機中の女子の先輩の地点も通過する。

 「水飲みなよ!!」と声をかけられて、和希は水を取り出し、ひとくち、走りながら飲んだ。

 気づけば、IoRi(イオリ)もいつの間に飲んでいたのか、ヒップバッグにつけたペットボトルの中身が3分の1ほど減っている。




「…………これで、全員追い抜いたんだよね?」


「そうですね」



 ということは、頂上までこの2人のデッドヒートということになる、わけだ。

 少し行けば長い石段が待っているし、そこでの戦いになるかも……



「!!」



 ひゅっ、と、下から跳んできた蹴りを和希はかわした。

 頬を風と泥がかすめる。


 地面からなかば逆立ちするような形でIoRi(イオリ)が蹴りを繰り出している。


 いつの間にその体勢になったのか。

 恐ろしいほどにわからなかった。





「じゃあ、本番。

 始めようか」



 アクロバティックな姿勢でIoRI(イオリ)が微笑んだ。



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