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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第4話 アイドルの殺傷力偏差値
48/145

アイドルの殺傷力偏差値(11)

◇◇◇



 翌、土曜日の朝。




「いやーいい感じで晴れたねぇ!」




 新橋が、手をかざしてまぶしい青空を仰いだ。


 空は見事に晴れ上がって、大文字山もまた、その「大」の字を、天に向けて誇らしげに掲げているように見えた。



「じゃあ、俺、お茶2リットル持って先に登ってるから、あとよろしく!」


「はぁ~い…」


 もう一人、女子の3回生の先輩が、山の途中で水2リットルを持って待機すべく、先行した。


 熱中症予防のため、全員、走りながら持てるリュックやナップザックなどに1人1本は500mlペットボトルの水かお茶を持てと言われているが、恐らく、それでも足りないと見込んでの水分配置。


 これは、負傷のためスタート位置で待機することになった、部長日比谷の提案らしい。



「楽しみだなー」


と笑うIoRi(イオリ)は、いつもの不審者黒ずくめではない。


 この暑いのに長袖の薄手のウインドブレーカーを羽織っているのは変わらないが、今日はおしゃれなランウェアだ。それにショートパンツとライン入りの黒のレギンス。皇居とか走っていそうなスタイル。

 長い艶やかな髪のアレンジポニーテールと相まって、ジャージだらけの女子の中でかなり目を引いた。



 さて、規定の時間前だが、既にエントリー者全員揃っている。

 しんがりで救護担当をつとめることになった慶史以外は、見事に女子ばかり。

 IoRi(イオリ)以外は、互いに口を利かない。

 なんだろうこの昭和の学園ドラマ(※イメージ)。

 爽やかな空に反して、非常に殺伐としている。

 楽しそうなのはIoRi(イオリ)1人。


 ……って、これでいいのかなぁ?




 大文字山(だいもんじやま)


 平安京の東に位置する、如意ヶ嶽(にょいがたけ)という山の支峰にあたる。

 


 毎年8月16日、『五山の送り火』といって、平安京の東西南北に位置する5つの山に、それぞれ火で文字や形が描かれる。

 大文字山はそのうちのひとつで、山の斜面に大きく、炎で、『大』の字を描きあげる。その迫力は、圧巻だ。


 火床は75箇所。

 ひとつひとつを、決められた家が、守っているという。

 かつて、その『大』の字に炎の点を加えて『犬』文字にしようとした不届きものがいたとかいなかったとか。



 その大文字山は、普段は、主峰の如意ヶ嶽とともに、手軽なハイキングコースとしても人気がある。


 銀閣寺として有名な東山(とうざん)慈照寺(じしょうじ)の横の登り口から、大文字の『大』の交点まで、普通に登って30分。


 道も迷いにくく、歩きやすく登りやすい。



 和希もロードワークがてら登ったりもするが、登るとき降りるとき、すれ違う見知らぬ人と笑顔で会釈しあうような、そんな空間だ。


 そんな空間を、殺伐とした煩悩で競走することになるのか。ううむ。



 数十分待機して……日比谷の携帯に着信が入った。

 大文字の大の字の交点に、新橋が到着したらしい。

 ちょうど規定の時刻の、数分前だった。



「今日はよろしくお願いしますね?」



 IoRi(イオリ)が微笑みながら挨拶すると、日比谷はひきつり笑顔を浮かべながら後退した。

 まだ、どうも、トラウマなのらしい。

 日比谷の感覚が多分正しい、と和希は思う。



 さて。規定の時間だ。号令は古典的なよーいどん。



「位置について、よーーーーーーい、」



 どん、と日比谷が叫ぶと、女子たちが一斉に駆け出し、リュックを背負った慶史がその後をよたよたかけていった。


 和希たちは5分、待機。



「ねぇ、和希」


「なんですか?」


「和希はバッグに何をいれてきたの?」


 和希の背負う、小さなワンショルダーのボディバッグを見ながら言う。


「携帯と水とお金だけですよ?」


「ふーん」


 そういうIoRi(イオリ)は、ペットボトルホルダーつきのヒップバッグをつけている。

 いちいちオシャレで、女子っぽく、セクシーだ。



「時間だ。位置について」


 日比谷に声をかけられ、2人は、位置についた。



「よーーい」


どん、という、さっきよりもいささか気合いにかけた号令のもと、2人は走り出した。



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