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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第4話 アイドルの殺傷力偏差値
47/145

アイドルの殺傷力偏差値(10)

◇◇◇



「いったい、どういうことですか!?」



 昇段試験のパートナーの自主練に付き合う約束をドタキャンして、講義終了後まっすぐ上泉邸に帰宅した和希は、屋敷の書庫にいたIoRi(イオリ)に詰め寄った。


 上泉邸のかつての主人であり、『昭和の武神』といわれた知有の曾祖父・上泉綱三。

 その貴重な蔵書を、手袋しながらしれっと読んでやがる。



「私も参加させてもらうことになった、ってだけだよ?

 あのあと、副部長さんとたまたま出会って、話をしてるうちにそうなったの。よろしくね」


「いったい、なにを企んでるんですか……?」


「なんにもー?

 楽しそうだから一緒に走りたいだけだって。

 ちゃんとハンデとして、私は5分遅く出発することにもなったし」


「……しかも、あなたが1位になったら、鈴鹿のかわりに慶史にしてくれ、って言ったそうですね?」


「うん。言ったよ?」



 首をかしげて楽しげに、和希の反応を見ているような顔をする。



「ヒロとでかけても、大体私に慣れてるからリアクションつまんないもの。

 だったら、まだ、今井くん?の方が色々、面白そう。

 それに、彼が関われば、和希もエントリーしてくれそうだし?」


「……お見通しですか……」



 腹立たしすぎて笑えてくる。



「新橋さんに教えられて、その場でエントリーしました、結局。

 IoRi(イオリ)さんと同じく、5分ハンデで」


「やった!

 じゃあ、同時スタートになるね!」


「慶史とでかけたがってる女の子が、丸腰の人間を状術でフルボッコにする格闘家じゃなきゃ、こんな無粋なことしませんよ…」



 鈴を転がすような笑い声。


 今朝の色々とか、鈴鹿(いとこ)にチクってもいいんですか。

 もし和希がそう言ったとしても、IoRi(イオリ)はまるで動じないのだろう。


 彼女は、ただただ彼女だけのルールに従って生きてでもいるようで、それ以外のルールには、ただ楽しむためだけに選んで乗っているような、そんな気がする。


 大文字山競走に乗ったのも、きっと。


 そして京都に来たのも、きっと。



「…………あなたのテレビ出演予定が、更新されていました。

 所属の芸能事務所のサイトで」



 ぱた、と、読んでいた本を閉じて、IoRi(イオリ)はその本を丁寧に机に置いた。



「いいね。

 知りたいことは自分で調べないとだよね」


「月末に2本、番組が入っていました。バラエティと、ミニドラマみたいです。

 ということは、事務所としては、あなたをその収録日までに連れ戻すつもりでいる。その意思表示で、サイトを更新した。

 一方で、試合の予定は、白紙。

 もう大晦日の試合から、半年以上空いてるのに」



 彼女はタレントでもあるのだろうが、そもそも格闘家である。

 MMA5戦無敗。

 格闘技の興行側としては、IoRi(イオリ)は逃したい選手ではないはずだ。

 オファーがないということは、まずありえない。


 ならば、理由として推測されるのは、本人が断っているという可能性と、所属団体が断っている可能性。或いは、芸能事務所が。



「あなたが、京都まで逃げてきたのは……

 それが関係してるんですか?」


「うーん。

 灯台もと暗し、というやつだね」


「?」


「でも、私に興味を持ってくれて調べてくれたのは、嬉しいことだ」


「……嬉しい……?」



 口にすべきは怒りじゃないのか?


 女が、自分の知らないところで自分のことを調べられるということは、つまり、身の安全を脅かされることに他ならない。

 芸能人ならなおさらだろうに。危害を加えられたアイドルが今までどれだけいたというのか。


 わからない。理解できない。

 そして、理解できないぶんだけ、彼女が頭を支配する。

 それが胸をざわざわさせる。


 にっ、と、IoRi(イオリ)は笑う。中性的な笑顔だった。



「私の行動原理はシンプルだよ。

 私は、誰にも私の邪魔をさせない。

 好きなものは諦めないし、狙った獲物は逃がさない」



「…………はい」

 多分そこに嘘はないのだろう。

 答えも既に、明示しているのかもしれない。

 和希にわからないだけで。 



「明日は楽しもうね」


 IoRi(イオリ)は和希に軽く手を振ると、再び、蔵書の中の本を手に取った。



◇◇◇


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