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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第4話 アイドルの殺傷力偏差値
45/145

アイドルの殺傷力偏差値(8)




「光栄ですが、お断りします」


「あ、即答」


「寝技が吐くほど嫌いなので」


「そうなんだ?」


「それに、闘いを生業(なりわい)としているプロの方に、手加減を強いるのは申し訳ないので、お断りします。時間もないですし」



 ふうん、というと、IoRi(イオリ)は床にするっと座った。

 思ったよりあっけなく引いたIoRi(イオリ)に戸惑いながら、和希は知有にストレッチを促す。


 ストレッチが終わり、知有がミットをぽこぱこ蹴っている間、IoRi(イオリ)は、血天井を眺めたり、立ったり座ったり、歩いたりしていた。

 次第に、道場のあちこちを、とっくりと見学し始める。


 正直、落ち着かない。

 なんだか、彼女が道場にいると、胸がざわざわする。


 ふっと、IoRi(イオリ)は壁に触れた。



「壁、何か細工がある?」


「ああ。昔は、武器庫みたいに、色々な、武器を、壁一面に、かけていたそうだが、怪我の原因に、なるからと、ひいおじいさまが、改造して」



 蹴りながら律儀に答えを返す知有。

 その時。



「おはようございます!」



 道場の引き戸を開けて、大きな声で挨拶した男がいた。

 今日も四尺棒いりのケースを背中にぶら下げた、今井慶史だ。



「慶史おはよう。どうした?」和希が声をかける。


「すみません急に。

 一限が休講になってしまって時間が空いたので。

 道場をお借りできないかと」


「慶史ならいつでも歓迎だ!」

 さくっと家主はOKをだす。「じゃあ、朝ごはんは慶史のぶんも」


「ああ、ありがと知有ちゃん。

 でも、朝ごはん食べてきたから大丈夫。

 毎回そんなごちそうになったら悪いし」


「そうか?

 それなら、デザートに用意してるさくらんぼだけでもどうだ? 

 頂き物なんだが、すごく甘いぞ!」


「さくらんぼかぁ。だったらちょっと食べたいな」


「了解っ」



 規定の回数ぶん蹴り終わると、知有はぴょんと跳ねて、道場の入り口までとんだ。



「私は着替えのついでに、台所で、慶史のぶんのさくらんぼも用意してもらってくるから。

 みんなゆっくり鍛練しててくれ!」



 そう言って、家主は一同に手を振り、ぱたぱたと駆け出していく。

 よく走る子である。



「さくらんぼって、久しぶりに食べます」



 と慶史がにこにこしている。

 超高級贈答品用のさくらんぼであるということは、さすがに想定していないらしい。

 それでいい。

 慶史はグラム単価とか考えずにぱくぱく食べるぐらいで良いと、和希は思う。



「……とはいっても、朝ごはんまでそんなに時間はないんだよな」


「まぁ、俺は軽く素振りでも。。。

 IoRi(イオリ)選手は打撃の練習ですか?」



 慶史がIoRi(イオリ)に話しかけると、

「ちょっと聞いてよー」と慶史のTシャツの裾を引く。


「和希にフラれちゃった」



「えーと……」



 美女に服を掴まれ、硬直して、リアクションに困っている慶史。



「MMAに誘ったんですか?

 和希さんは基本、打撃特化型なので……」


「好き嫌いは良くないよー」


「好き嫌いがあってもいいじゃないですか」


 苦笑いしながら慶史は続ける。


「自分の闘う場を選ぶのも、強さのひとつだと思いますよ?」


 ふーん、とIoRi(イオリ)はつまらなそうに慶史を見やる。

 ……その顔が心なしか演技っぽく見えた。

 その顔のしたで、慶史に強い関心を抱いているような。

 気のせいか、と和希がそれを自分の中で打ち消した、その時。


「キミ、相手してくれない?」


「え? 杖術…ですか?」


「うん。異種戦。キミは杖。私は素手」



 美女は微笑む。


 何のことはないように言うので、思わずそのまま内容を咀嚼せずにうなずいてしまいそうなふわっとした罠に、慶史も一瞬はまりかけて、


「いやいやいやいや」

と、際どいところで気づいて強く首を振る。


「ダメですよ!危なすぎます。

 スポーツチャンバラ(スポチャン)の棒とかならともかく!」


「そうかな。

 キミと私の実力差なら、ちょうどいいんじゃない?」


「え…………」


「薄々感じていましたけど」



 無邪気な侮辱に言葉を失う慶史の代わりに、和希は苛立ちを隠さず口を挟んだ。



「だいぶあなたも、頭おかしい人ですよね。

 それはそれで私は嫌いじゃないですけど、普通の人間を自分の側に巻き込もうとする奴は嫌いです」


「褒められてる、と思おっかな?」


「どうでもいいんで、私の後輩に謝れ女狐」



 ふふん、と、IoRi(イオリ)は反省の色ひとつ見せない表情で、しかし、慶史の方に向かい、「ごめんね」と微笑んだ。



「その代わり、この棒、ちょっと見せてくれる?」


 と、言ったときには、慶史の四尺棒はIoRi(イオリ)の手にあった。気づいた瞬間、猛烈な勢いで慶史が棒に手を伸ばす。

 ばっ、と、棒は慶史の指先をかすめていき、取り戻すことはできなかった。



「―――いい顔」


 慶史を見て、IoRi(イオリ)は一層楽しそうに棒をくるくると回した。



「お礼に、本当の杖術を見せてあげる」


 そういう、IoRi(イオリ)の手から……



「!!」



 和希向けて四尺棒が突き込まれた!!



「慶史っ!?」


 和希の体は避けていた。

 しかし、和希を庇って四尺棒の前に躍り出た慶史の肩を棒先が強打した。


 しまった。慶史がこう動くことぐらい、予想するべきだったのに。


 さらにIoRi(イオリ)が棒を振り回す。2人は避けた。

 ターゲットを慶史に絞ったらしいIoRi(イオリ)は、突き、打ち下ろし、逆袈裟と、縦横無尽に手ぶらの慶史を攻める。

 当然慶史は防戦一方、というか防ぐことも出来ない。



「やめろ!! 慶史に、触んな!!!」



 ミットをIoRi(イオリ)に投げつけ、和希が棒と慶史の間に入ろうとした、その時。

 慶史が、際どい角度で棒をかわして駆け、高く跳躍して壁の上部にとびついた。


 ガチャン


 何かの掛け金を外すと壁の一部がパタリと倒れ、その向こうに、薙刀、木刀、棍、と数々の武器が格納されているのが見えた。


(!?)


 こんな仕組みがあったなんて!?と和希が驚いている間に慶史は木刀を手に取り、打ち込んできたIoRi(イオリ)の杖をガッ、と、受け止める。


 カンッ


 カンッ


 カカカンカカカカカンッ……


 速い! 

 絶え間なく響き続ける音。

 火花が散りそうなほどに、2人は、木刀と棒を切り結ぶ。


 しかし、隙あらば持ち手と切っ先を入れ替える、腕の陰から跳ねあげるなど、木刀よりもはるかに自由度の高い四尺棒の動きに、慶史はギリギリ受け続けることしかできていない。





「やああああああああああああッ」




 慶史は、和希が初めて聞く大きさで雄叫び、大きく踏み込んだ。


 突き込む慶史の剣先。

 しかしIoRi(イオリ)は避けた。


(!?)


 足狙いだ。IoRi(イオリ)は一瞬で身を沈めると、慶史の前足を狙って、四尺棒を打ち払い………




 足を見事とらえたはずの棒は地面すれすれの空を切り、次の瞬間、跳んでいた慶史が放物線を描いて落ち様、IoRi(イオリ)の肩の上に乗り、そのまま体重をかけてIoRi(イオリ)を押し倒した。



 木刀を片手でつかんで、IoRi(イオリ)の鼻先に突きつける。




「返してください」



 きっぱりそう言うと。

 慶史は、IoRi(イオリ)から四尺棒を奪い返した。


 



◇◇◇


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