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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第4話 アイドルの殺傷力偏差値
44/145

アイドルの殺傷力偏差値(7)

◇ ◇◇



 ……翌朝。すなわち金曜日の朝。



 和希と知有は、上泉邸の武道場に、IoRi(イオリ)を案内した。


 彼女は例によって、夏なのに長袖の黒ずくめの不審者スタイルなのだが、防水性パーカーのフードを被らず、大輪の花のような美貌を見せていると、印象はまるで変わる。

 全身つやなしの黒さえ、なんだか美人度をあげているようにさえ見える。



 武道場は、上泉邸の見事な庭園の一角にあった。

 庭園に敷き詰められた、白い玉砂利。

 そのなかに、ころころと埋められた、飛び石を踏んで、そこへと向かう。



「ここだ」



 知有が道場の引き戸につけられた、時代劇の蔵についていそうな、ごつい錠前に太い鍵をさし、カチャリと開ける。

 ガラリと、引き戸が開けられた。



「へぇ………」


 IoRi(イオリ)は靴を脱いで上がると、広い道場の中を、嬉し気に見回した。


「一面の壁が、開閉式のカバーで覆われた、全面鏡。

 アップ用に手すりあり。柱も角のない丸木を使った上にクッションで覆われてる。

 実用性を追求してるんだね。

 外から見るとこれだけ古風で綺麗な木造建築なのに、躊躇なく無数の手が入ってる」


「使う人間の役に立ってこそ道場、というのが、ひいおじいさまの主義だったからな。

 ただ、手を入れていないものもあるんだ」


 そう言って、知有は道場の上を指さした。


 IoRi(イオリ)はつられて、天井を見て。

 これまでとは、別種の笑みが、その顔に浮かんだ。


「血天井………」


IoRi(イオリ)さんも、興味がおありですか?」



 和希は尋ねた。和希自身も、最初にこれを見たとき非常にテンションが上がったものだ。

 天井には、見慣れない人間にはただ不思議なしみにしか見えないだろう模様が広がっている。

 それは、人が転がった跡であり、さらによーく見ると、手のあとも残る。


 血天井。攻め滅ぼされた城などの、殺された人間の血のあとが残った床板を、供養のため天井として用いたものをそう呼ぶ。

 不謹慎だが、城好きや歴史好きには垂涎の的だろう。



「すごい。個人のお宅で、よく手にはいったね?」


「どこかの寺が建て替えの時に譲り受けたんだと思うぞ。

 だから天井には照明をつけず、壁の高い位置に」


「でもそれをどうして武道場に?」


「それは、多分推測だけど……」


「……ええと。

 見ていたいのはわかりますが、時間がないので」



 和希は知有とIoRi(イオリ)との会話をさえぎりながら、練習用のミットを引っ張り出してきた。



 ちなみに、知有は、練習前後は武道場に雑巾がけをしたい派である。


 というよりも、武道とともに、なぜか道場の雑巾がけにも憧れていたようだ。和希がここに来るまで、嬉々として毎日雑巾がけをしていたとか。


 確かに、強くなるための修行としてそれらしいし、実際、明治最強の薙刀使いである園部秀雄(女性)は、雑巾がけが自分を強くしてくれた、という言葉を残しているとか。


 しかし。

 下宿生としてやってきた和希は、強硬な雑巾がけ反対派だった。


 腰に負担がかかりすぎる、背筋は回復に時間がかかるのでいたずらに毎日負荷をかけるべきではない、というのがその理由。

 和希の歳ならともかく、こどもの腰に望ましい負荷ではない。

 モップがけで充分、と強硬に主張した。


 それに、和希が昔行った道場のひとつで、こどもの教育のためにと雑巾がけをみっちりさせるところがあったのだが、みんな結局、腰の痛みが次の練習まで取れず、次々辞めていったのだ。



 ……と、いうことを、やってきた当初に和希がこんこんと話しているうちに知有が若干涙目になってきたので、結果、折衷案として、週一回日曜日の朝に、2人で雑巾がけをすることになっている。



「朝は家主さんと、軽く運動しているんです。蹴りとか」



 ミットを見るなり、目を輝かせて、しゅびっ、と構えた知有に、「さきに柔軟です」といって和希は構えをとかせる。



「どれぐらい時間があるの?」


「30分ぐらいです。

 家主さんの方が家を出るのが早いので」


「じゃあ、和希は、まだ時間があるわけだ?」


「……多少ですけど?」


「じゃあ、私、あとで和希とりたい」


 いきなりお誘いをぶちこんできた。

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