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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第4話 アイドルの殺傷力偏差値
39/145

アイドルの殺傷力偏差値(2)

◇◇◇




 その日は、梅雨の合間の久しぶりの晴れだった。


 鴨川の河川敷の一角、芝生が広がっているスペースがある。


 学生たちの憩いの場であり、和希たちのサークルはしばしばここでトレーニングをする。

 珍しくしっかり晴れたので、ずっと屋内では気も滅入るだろうと、部長判断で今日はそとでの活動となった。


 和希たちのサークルは、運動サークルとしては少し特殊で、特定のスポーツをするわけではなく、運動能力向上のために個々がそれぞれの課題の点を鍛えるというものだ。

 だが、あと2日後に迫った大文字山競走に向けて、大体皆(主に女子)が多く気合いを入れているのは、ダッシュなど、走力強化のようだった。




「和希さーん」



 ベンチに座り、巨大おにぎりだったものを食べている和希に、メガネをかけた男子学生が声をかけて横に座る。

 一見ごく普通の人の良さそうな男子だが、覚えたての杖術に使う四尺棒を、きょうもしっかり携えていた。

 和希が一番仲がいい後輩で、その名を今井慶史という。



「動く前に食べて大丈夫ですか?」


「大きすぎて、昼に食べ切れなかったんだ。

 家主さんが最近ばくだんおにぎり作りにはまったらしくて」


「ああ、知有ちゃんも家庭科とかやってる歳ですもんね?」


「家主さんに持たされた、って言ったら、主将も副将も、世話好きなおばあちゃんみたいな家主だと思ってる風だったから、あえて否定はしなかった」



 慶史が笑った。


 このメガネ少年、無邪気に笑っているが、全方面から恨みを買い続けている和希のせいで、ここ3か月、ずっと様々な事件に巻き込まれている、和希の一番の被害者でもある。

 なのに、和希に向ける笑顔はあくまで屈託ない。

 ちょっとお人好しにも程がある1回生。



「女子随分気合い入ってるな。

 当事者の鈴鹿は、今日は?」


「あぁ。今日は遅れるそうです。

 京都駅まで人を迎えに行くらしいですよ。

 身内、って言ってました」


「鈴鹿は余裕だなぁ。。。」



 明後日、サークルで行われる予定の大文字山競走には、ある賞品がある。


 別途エントリーした中で、一番になると、このサークルのイケメン2名と祇園デートできますよ、というものだ。


 2人のうち1人が、1回生の鈴鹿尋斗。

「『世界で一番ハンサムな顔』100人並べても、鈴鹿くんの方が圧倒的に勝ってる!」

とサークルの女子が雁首並べて豪語する、少女漫画みたいな容姿を持つ。


 これだけだと、なんともおちゃらけたイベントに聞こえるが、実はそうではない。

 元々、顔に似合わず自分も他人も鍛えたがりの鈴鹿としては、自分(の、顔)目当てに入った大量の女子たちがサークルの活動に身が入っていないのが不満だったそうだ。

 それを相談した相手が、サークルの副部長で、よからぬことを企ませれば天下一品の3回生男子、新橋。彼が、



『じゃあ、本気出してみんなが闘うようなイベントをやればいいんじゃない?』



と、思い付いたのが大文字山競走だそうだ。


 和希はもちろんそちらにエントリーする気はない。普通に走る。

 女子たちの戦いの行方も興味がない。



「……なんか主将たちとか、タブレット見てるし。

 もうすぐ始まる時間なのにな」


「なんか格闘技の動画見てるみたいでしたよ?」


「格闘技?」


「ええ。女子格の」



 そう言われると、途端に興味が湧いてきた。

 おにぎりを食べ終わっていた和希は、すっと立ち上がり、主将副将の2人のもとへ歩いた。慶史もついてくる。

 部長副部長は、2人してタブレットの画面を見ながらぶつぶつ会話をしている。



「なに見てるんですか?」


「ああ、これね。去年の大晦日のやつ」



 新橋が、持ってるタブレットを、和希にも見えるように傾けた。

 女子同士のMMAの試合の動画だ。

 ぱっと和希の目を引いたのは、一方の選手の華やかな美貌だった。

 画面の右上にはキャッチフレーズ『古武術が生んだ神秘の最強美少女!』



「……ああ、IoRi(イオリ)選手の試合ですか」


「そう! 俺、いま、めっちゃ推しなの!!」



 超いい笑顔で新橋は言い切った。

 IoRi(イオリ)選手は、昨年来急激に認知度をあげ、もはやその人気はそこらのアイドルを軽くしのいでいるファイターだ。

 MMAなどの試合に出て、マルチに活躍している。



「まずさー、ものすっごく可愛くない?」


「華のある感じ、万人が認める美人、って顔ですよね。

 私もわりと好きな顔です」


「髪もきれいだしさぁ。格闘家で珍しいよねぇ」


「顔は美人なのは認めるんだけどな」



 部長の日比谷ひびやが、野太い声で口を挟む。

 180センチをこえる、かなりガタイがいい男だ。



「なんつうか、名前聞いたことない雑魚とばっか闘って、勝ち数積み上げてるっつうか、顔で下駄履かされてる感が否めないっていうか」


「いやいやいやいや!? 何を言うか!?」


「だって、その大晦日の試合だって、しょっぱい勝ち方してんじゃん。。。」


「彼女は古武術育ちなんだよ!

 こどもの頃から、日本の文化遺産を継承して育って、でもその素晴らしさを知ってほしいって理由から、メジャー格闘技の試合に出ることを決意して、一生懸命近代格闘のルールに対応してんだよ」



 新橋が熱く語るのを、日比谷がはいはいと流す。


 和希は既に見た試合だったので、IoRi選手が強いか弱いかの議論を続ける日比谷と新橋からは距離をとるべく、歩き出す。と。



「和希さんから見たらどうなんですか? IoRi選手は」


と、慶史から聞かれた。



「………そうだね。不思議だなぁ、って」


「不思議?」


「この人、めちゃくちゃ強いのに、なんでこんな闘い方してんだろうって」


「…………?」



 慶史が、首をかしげた。

 耳ざとく和希の評価を聞いたらしい日比谷と新橋も、こちらを見る。


「それって―――――」慶史が、何事かいいかけた。


 しかし。


「やっぱり、俺はそうは思えないなぁ」


 日比谷が遮って、自分の主観がたりをする。


「大体、なんで格闘技の興業で使いもしない古武術を売りにしてんだよ。普通のMMAファイターだろ? 達人きどれば保護してもらえるからか?」


 日比谷!とふくれる新橋にたいしても、お構いなしだ。


「要は、今MMA練習してますって言い訳に使われてるだけだろ。

 格闘家っていうか、そもそも単なるアイドルなんじゃねぇのか?

 キャラ付けに古武術つけたら、ちょっと大和撫子風に見えるってだけで。そもそも古武術もどれだけやってるか怪し――――」



 とん。


 とん。



 その時、いつどこから湧いてきたのか。

 黒ずくめのフードを目深にかぶり、顔を隠した細身の人物が、いた。

 その人物が、日比谷の腕を、とん、とん、とつついていたのだ。


「ん……なん……ですか?」


 正体不明のその人物を振り返り、日比谷が受け答えた。

 その時。






 強烈な足払いで日比谷が瞬く間に倒された。


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