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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第3話 雨の夜には牙をむけ
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雨の夜には牙をむけ(10)




 彼らの動機としては、おそらくそれほど深いものではあるまい。



 単純に、自分たちが和希から受けた暴力を理不尽なものとしてとらえ、どうしても腹がおさまらなかったから、憎たらしい三条和希をどうにかぼこぼこにしてやろうということだったのだろう。


 もはや戦意がなくなったなら、逃げれば良いのでは。

 正直そう思うところだが、和希に背中を向けて逃げるのも恐ろしいのだろうか。


 ならば、と、和希は、後ろに2歩下がってみる。

 距離ができたことで3人ともどう出るか見ようと思ったが、特殊警棒もちの1人はそのまま、刃物もちの2人は、顔を見合わせたのち、じりり、と、前に出た。


 突然、包丁をもった1人が、ぶん、ぶん、と、むやみやたらに振り回しながら前に出始めた。

 仲間がやられているぶん、一太刀でも和希に浴びせないと退くに退けない、ということか?

 ただ、こちらとしても危険極まりなく、厄介だ。


 素手では。


 開いたまま逆さまに落ちているビニール傘を1つ、ちょいと拾うと、和希は先端を相手側に向けた。

 ビニールを通して和希の顔が見えているせいか、男はひるまず、包丁を振り回してきた。

 包丁がビニールに刺さった瞬間、和希はぐるりと傘を回した。


「がッ…………」


 包丁が回転する傘のビニールと骨にからめとられ、包丁をしっかり握りしめた男の手も巻き込まれて大きく体勢を崩した。


 援護するためにか、もう1人の刃物男が和希にかかろうとしてくるので、傘の柄をぶんと振り回して包丁男の体をぶつけさせる。 

 仲間にぶつかって、ようやく包丁男が包丁を手放した。ふらつくその男の顔面に、外回りのかかと落とし(ネリョチャギ)を落とし、意識をも手放させた。


「……ぁ…………」


 自分のすぐ横でKOされた仲間に、小さなナイフを握った男は唖然とした。


 その男の顔に、かかと落としした足がそのまま前蹴り(アプチャプシギ)として突き刺さる。

 泥に染まったスニーカー越しの前足底を突き込まれ、彼もまた、後ろにのけぞり泥に倒れた。


 さて、刃物組は片付いた。

 残るはあと1人。だが。



「なんだ。

 俺の分残しておいてくれなかったの?」



 あと1人いたと思っていた特殊警棒の奴は、後から来たトオルに既に腕をひねりあげられていた。

 しばらくじたばたしていたが、難なく地面の上で固められて、抵抗を諦めたようにおとなしくなった。



「……2か月後に世界大会行く奴が何言ってんだ。

 今一番ケガできない人間のくせに」



 雨の中でだいぶ濡れているくせに、けらけらトオルが笑う。

 いやまったく、笑いごとでも冗談でもないのだけど。

 大事な体だ。和希のせいでトオルが刺されてでもいたら、トオルの団体のトップに土下座ぐらいでは済まない。



「えっと、鈴鹿は?」


「鈴鹿、くんっていうのか。

 いまさっき荷物預けちゃった」


「小学生かよ。

 じゃあ、戻らないと……」



 そう言って、公園の入り口の方に目を向けた和希は、そこに駆け込んでくる1人の姿を認めた。



「あ、鈴鹿」



 鈴鹿が、駆け込んできた。

 エモノのつもりか、畳んだ傘を握りしめて。

 表情は、ご立腹というよりは、かなり焦っての様子で。


 が、公園内の、既に全員片付いていた状況を目にして、目を見開いて立ちすくむ。



「あの……。

 これ、は?」


「ん、三条があらかた片付けてた」こともなげにトオルが言う。


「え…………え…………?」



 鈴鹿にとっては、まったく想定の範囲外だったらしい。

 先輩が危ない目に合っているに違いないので早く駆けつけようと思って来たのか。

 転がっている死屍累々の男たちを見て、言葉を失っている。



「俺が帰ろうとしたの、フェイクって言ったじゃん。

 男がそばに居るとこいつら来ないで、また別の機会を狙うでしょ。

 だからいったん離れたの」


と、少しずれた説明をトオルがしている。「荷物は?」


「……早く行かないとと思って。

 駅のコインロッカーに放り込んできました」


「ん。たすかったー。

 おかげで荷物濡れずに済んだ。

 ありがと!」


「私のはずぶ濡れだけどな。

 教科書大丈夫かな……」



 和希は戦闘中手放していた道着入れのビニール袋とボディバッグを、それぞれ拾いあげる。



 後輩が心配して駆けつけてくれたことを察しはしたのだが、それでも割と自分としては通常営業だという感覚が抜けない和希。

 まったく大したことないという風なトオル。

 2人を見て、何か言いたげというか突っ込みたげにしてジト目で見ていた鈴鹿だったが。



「………戻りましょうか」



 やがて、何かを諦めたように、言ったのだった。



◇◇◇

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