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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第3話 雨の夜には牙をむけ
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雨の夜には牙をむけ(9)

◇◇◇



 高野川と賀茂川に挟まれた三角形の土地がいわゆる下鴨。下鴨神社とただすの森、そして上泉邸がある地だ。

 そして、川の合流地点の三角州を俗に「鴨川デルタ」と呼ぶ。


 三条和希は橋を渡り、そのデルタへと。

 デルタのすぐ北に、こじんまりと、人けの少ない公園がある。その公園の中に、和希は入っていった。

 遊具などがあるわけではない。ただ、まばらな木々に囲まれていた。


 すぐ隣を道路が通っている。

 おそらく、すぐ横を自動車が通ればすぐ目撃される。

 しかし雨ならば。


 和希の後を追ってきた者たちが足を速め、次々にビニール傘を投げ捨てた。


 まだこちらを振り返らない和希に、彼らは走る。

 雨で足音がかき消されることを確信しているように。


 獲物めがけて。




「……………!!??」




 突然和希が、開いたままの傘を後ろに投げた。


 慌てた男たちが、その傘に一瞬意識を取られた。


 次の瞬間。


「ッッ……!!」


 先頭に位置していた男が痛烈に蹴り飛ばされた。

 いつの間にか横蹴り(ヨプチャチルギ)が届く距離に和希が迫っていたのだ



 雨で滑る地面。

 倒れ込む仲間。


「おお!?」新たに足を払われた男が倒れて、彼につまづいた奴が2人ほど泥に倒れ伏す。


「ッッ…!!」

「あっ…!!!」

 頬に掌底を食らった男、足をへし折るような軌道の横蹴りを膝関節に受けた男が、それに続く。



 和希は既に距離を取っていた。

 雨に濡れ足元もぬかるむ中、まるで武道場の床の上のように安定して動く和希と、1人残らず泥にまみれ、足元のおぼつかない襲撃者たち。


「………なんだ。

 こないだ、私が新歓コンパを潰した奴らか」


 見覚えのある顔ぶれに、和希は呟いた。


 襲撃者たちが所属していたサークルでは、一部の構成員たちが毎年、新歓コンパの3次会や4次会で、女子の新入生に酒を飲ませて潰して良からぬことをしていた。

 所属していた男子学生からSOSを受け、先日そのコンパを、2回に渡って実力行使で叩き潰したのが三条和希である。



(策としては悪くなかったんだけどな)



 奇襲、あるいは、特定の人間を襲撃するのに、雨の日を狙った戦略は悪くない。

 晴天と比べ、雨は人の注意力を奪う。人が近づいてくる気配も隠す。

 自分たち自身が濡れる不快感と低温度を耐えることができるのなら、悪くない策である。


 彼らが運が悪かったのは、狙った相手が、自分たちよりも遥かに雨慣れしている女だったこと。

 雨の日の路上・屋外で数十戦は重ねた、雨を得意とするファイターだったということだ。


 現時点で戦闘不能は3人。

 残り5人。

 うち2人は足をひねったか、ひょこひょこ、よたついている。


 和希は、すぼめた手のひらを上に向けて、ちょい、ちょい、と指を煽った。

 来いよ。

 というのが、雨のなかと言えど伝わるだろう?



「こいつッ…!」



 誰かが吠えた。

 彼らは皆、大きな荷物を持ってはいない。

 せいぜいが腰につけたシザーバッグや、小ぶりのボディバッグなど。

 その、小さな荷物を持っていた男らは、めいめい荷物の中から何かを取り出している。


 特殊警棒。1名。

 刃渡り10センチほどのナイフ。1名。

 小型包丁。1名。

 手ぶら。2名。


 みなそれぞれ、小型の荷物の中に隠せるサイズのものを選んだか。

 ナイフや小型の包丁はありものを持ってきたのだろうが、特殊警棒なんてそうそう売っていないだろうに、どこかで購入したのか。



 殺人、が目的ではなさそうだが、刃物は危ない。

 刃物を持った手を伸ばすと、意外にも結構な間合いまで届くのだ。

 蹴り足を傷つけられるおそれもある。



 和希は、木々の間を抜けて、隣の道路に飛び出した。


「!!??」


 面食らう男たちが、あとを追おうとする。


「わ、あああああ…!!」


 困惑の声があがる。

 タイムリーに自動車が走りこんできたのだ。

 車にひかれそうになり慌てる男たちを狙って、手ぶらの2人ともを足狙い。

 アスファルトの上で転倒させる。



「いっ……てッ!!」



 そのまま、その速い足で男たちを振り回して撹乱して、和希が再び葵公園の中に駆け込んだ。


 また公園の中まで追ってきたのは、武器を持った3人だけだった。

 うち、ナイフを持った1人は、足を引きずっている。


 固いアスファルトの上で、受け身を取れない状態で転倒させられた2人は、うずくまり、どうにか道の端へと這っていくのがせいいっぱい。



 手に手にそれぞれの武器を握りしめた男たちは、息を飲むようにして、和希から一瞬たりとも目を離すまいとしている。

 その手が、どうやら震えている。

 和希を襲いにきたというよりは最早、その武器が唯一自分の身を守るものとでも見なしているような。


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