雨の夜には牙をむけ(8)
◇ ◇ ◇
「じゃ、三条。ここで」
「うん。じゃあ、また」
2人別れる。
和希は、橋を渡った。
下鴨へとかかる小さな橋を。
後ろを振り返りもしない。
数メートル以上あけて、7、8人の一団が、慎重に和希の後をつけるのも、見もしない。
――――――思わず後を追って駆け出しそうになった体が、いきなりガクンと止まった。
そのまま、何者かに力強く後ろに手を引かれる。
叫ぼうとした瞬間、自分より大きな手で口を覆われる。
傘を落とした。何者かの馬鹿力にずずずず、と、引かれ、近くの駅の屋根の下へ。
「しーぃ」
口を覆った手と逆の方の手で唇に指を当てて、しずかに、と言ったのは、牧ノ瀬刀流。
「しばらくぶりだな後輩クン」
「…………帰ったのでは?」
さして自分と変わらない体格なのにやたら力強い手をどうにか口から外して、鈴鹿は言った。
「フェイクフェイク」
よっ、と雨のなか屋根の下から出て、トオルは鈴鹿の傘を拾ってきた。ご丁寧にたたみまでする。
その間、和希の後ろをつけた連中が、どんどん離れて小さくなっていくのが鈴鹿としては気が気ではない。
「後ろをつけてる連中がいたのは、三条も知ってるよ?
で、なんでその後ろをさらにつけてたの?」
「…………早く、行かないと」
「質問に答えよっか?」
「……………何してんですか……」
「質問してる」
意味がわからない。三条和希を後ろから援護するためにここにとどまったのではないのか。いや、時間は無駄にはできない。
「理由は……」
たまたまだ。と言える。
たまたま通りがかったときに、三条和希たちの後ろをつけていく怪しい一団を見かけたから気になった。
それが直接的な理由だ。
ただ、その状況になったのは。
気になったからだ。この目の前の男が安全なのか否か。
「………守れ、と言われたので」
「三条を?」
うなずく鈴鹿。「俺がわからないものは、すべて警戒します」
「なるほど。
守るからには、俺も警戒対象なのね。
……自分が彼女を守る、って、ストーカーの常套句その8ぐらいじゃん?」
そんな気は自分でもした。意地でも肯定はしないが。
「そっかぁ。ちなみに俺はねぇ」
そう言うとトオルは、自分のバッグと道着入りのリュックを、ほい、と鈴鹿に持たせた。
あまりに自然なその動きについ受け取ってしまった。次の瞬間。
「じゃあよろしくッ!!」
雨の中、身軽なトオルは駅から駆け出した。
橋を渡り、みるみる背中が遠くなる。
「…………!!!!」
やられた!
小学生のごとく、荷物預かりを押し付けられてしまったことに気づいた鈴鹿は、うかつな己に舌打ちした。




