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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第3話 雨の夜には牙をむけ
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雨の夜には牙をむけ(7)

◇◇◇



「…なんか。

 三条和希のところに誰か来てる?

 あいつのサークルの奴じゃないぞ、あれ」


「ネットニュースで見覚えがある。

 テコンドーの世界チャンプか何か?だった気が…」


「マジか。

 何でそんな奴が今日に限って来てんの?」


「知るかよ。

 さすがに帰り道まではいないだろ?

 いるとしたら、あの理系クソメガネぐらい」


「いやいや、あのクソメガネ武器使うじゃねーか。

 わざわざ、サークルある日狙うべきじゃなかったんじゃ……」


「他の日は家帰るのが早いんだよ、三条は」


「そうだよ。

 アイツが遅い時間まで外にいる日なんて限られてる。

 しかも、こんなにしっかり雨が降ってりゃ、自転車も使えない。

 傘さしてりゃ、武器だってすぐには……」


「わかったわかった。でもさぁ……」


「なに」


「やたら女子が多くてうらやましいんだけど……。

 何あれ?」


 誰かが誰かの頭をひっぱたく音が、体育館の端の方で響いた。



◇◇◇



「………………あ、の、さぁ…………」


「三条ー。生きてるかー?」


 時間経過して、いまは夜の9時前。


 消耗しすぎて床に倒れこんだ状態の和希を、しゃがんだトオルがつんつんつつく。

 トオルはTシャツに、下だけ道着のズボン。

 道着を着る系の武道の人間によくある練習スタイルだ。



「……おかしいな。

 私は、昇段試験の練習を、してたつもりだったんだけど。。。」


「だから、今日はひとつひとつの動きの基礎の基礎からやったんじゃん。

 一時間半でこんなになるなんて、鍛え方が足りないぞー三条和希。

 ていうか、着地の衝撃を吸収する用の筋肉が足りてないんじゃない」


「上半身はともかく下半身は足りてますー。。。

 あんたのしごき方がおかしいんですー。。。」


「持久力ないなぁ。この程度でしごきって。

 これ、俺が姉ちゃんにやらされてたメニューだよ? 

 小学生のときに」


「牧ノ瀬姉、何やってんの。。。。」



 うめく和希に、けらけらトオルが笑う。

 快活で、おもちゃみたいで、妙に楽しそうな笑い声だ。

 どこからこの声出るんだろ。



「………何がおかしい?」


「えー。面白いじゃん。

 最強の路上ファイター三条和希が、こんなへっろへろな図って、なっかなか見れないし」



 うつ伏せで横向いた和希の鼻先を、つんつんと人差し指でつつく。

 こいつ、姉よりSだな。

 舌打ちして、和希はよっこら体を起こす。

 乱れた髪を、ぽふぽふと、しゃがみこんだままのトオルが直した。


 その手が止まり、トオルが、和希を真正面からじっと見つめる。

 笑顔だけど、ずっと奥まで和希を見るような目で。



「よかった。最後まで平気で」



 和希はうなずく。

 確かに。今日は途中でダメにはならなかった。



「…………まぁ、ありがとうございました」



 練習のきつさの方に気を取られたせいもあるかもしれないが。

 それ以上に、トオルが色々和希のメンタル面を考えてくれて、気をつかってくれたからだろう。

 お手数をおかけしました、が正しいかもしれない。



「さて。もう体育館閉館みたいだし、着替えたら出よー。

 ごはん食べてるみんなに合流する?」


「いや、いいや……雨だし」


「そっかー。雨だしな」


 トオルは、見えもしない天をあおぐように天井を見た。

 体育館の地下からは、外がほとんど見えない。

 だから忘れそうになるが、今は梅雨。外は結構な雨だ。



 けれど和希は、雨の日が嫌いではない。



◇◇◇



「梅雨の時期って、ロードワークとかどうしてる?」


 傘を差し、体育館を出たところで、和希はトオルに尋ねた。



「んー色々。

 教えてるジムでランニングマシン借りたりとか?

 あとさっきは、体育館の地下にあったエアロバイクこいでた」


「へぇ…」



 歩きながら話すには、雨の音がうるさい。

 それに邪魔されぬ会話をと思うと、心もち、声はどうしても大きめになる。

 傘で周囲も隠れているし。



「かなりハードにやってたけど、リカバリーに何か気を使ってることある?」


「ん、なに三条。

 俺の自主トレメニューが気になるの?」


「いや、そういう意味では……」



 普段なら学生の人通りもまだ多い時間だが、雨のせいか、今日は比較的閑散としている。



「別に特別なことしてないし、隠してないし。

 何だったら自主トレ一緒にやろー?」


「……タダ?」


「えー。そこなの」



 またトオルがけらけら笑う。この男の笑いのツボはよくわからない。



「でも、三条は世界大会とか出たくないの?」



 その言葉の切れ目で、トオルは口だけ動かした。“うしろ”



「……飛行機代と宿泊費を誰かが出してくれたらね」



 和希も同じように、口パクで言う。“なんにん?”



「『新影(シンカゲ)』がスポンサーになってくれたりしねぇの?」


 “ななか、はち”


「まさかぁ」


 “ぶきみえた?”


「俺の指導は安くしとくよ?」


 “みえなかった”


「タダじゃないんだ」


 “はものかも”


「ウソウソ。金とか取らないって。だから自主トレ、一緒にしよ?」


 “それと”


「(……?)そうだねー」


 “なに”


「よし! じゃ、明日から一緒にやろう!」


 “こうはい、きてる”


 思わず振り返りそうになった和希に、小さな声で鋭く「みるな」とトオルが制止した。


 “けいし?”


 しゃべるのを忘れて、和希は口パクだけした。


「じゃあ、あとで予定メールで送るから」


 “さそりげりのやつ”


「約束な!」



 はぁ、とため息をついた。

 頭を抱えたくなったが、まぁ、ついてきたものは仕方ない。

 おそらく。

 鈴鹿は和希らの後ろについてきている連中の、さらに後ろに来ているのだろう。

 自分がストーキングされて嫌だったくせに、何をやってるんだ……?



 和希は、足を速めた。

 トオルも察したらしくついてくる。


 闘いの開始まで、あと少し。



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