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京都学生格闘譚  作者: 真曽木トウル
第3話 雨の夜には牙をむけ
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雨の夜には牙をむけ(6)




「……え………?」



 呆然とする部員たち。

 何が起きたのかわかっていない。

 ただいま鈴鹿の、上段蹴りが入ったのだということを。



「青、一本!3対3」



 和希は響く声でポイントを告げた。


 慶史が拍手するのをきっかけに、皆が歓声をあげる。



「すごいすごい」

「なにあの蹴り!」

「びっくりした!魔法みたい!」

「鈴鹿マジすげぇ!!」


 賞賛のなか、鈴鹿は変わらずポーカーフェイスである。



 魔法でもなんでもない。

 さそり蹴り。

 背中側に足を蹴りあげる、伝統派空手の組手競技で近年使われる蹴りだ。


 和希の多用するテコンドーの後ろ回し蹴り(パンデトルリョチャギ)、或いは後ろ掛け蹴り(パンデコロチャギ)は、横から相手の頭を刈り取る軌道を描くが、さそり蹴りは、下から文字通りさそりの尾のように掬い上げる軌道で相手の顔をとらえる。


 完全に死角になっていただろう下からの蹴りに、トオルも対応できなかったか。



「同点だぞ!

 ファイト!!」



 日比谷が声を掛ける。

 何だかんだで彼も鈴鹿をひいきにしているようだ。


 トオルは首を傾げる。ただ、表情は変えない。



「両者、構え…………始めッ!」



「鈴鹿、行けるぞーー!」

「鈴鹿くん、ファイトーー!!」


 ほぼ再開と同時の声援。

 その時、トオルが何か、得心がいったような表情をした。


 再び鈴鹿は、足を運ぼうとする。が。




「!?!?」




 トオルの足は、先程の鈴鹿を追うような動きではない。

 左右、大きな踏み込みで、半ば鈴鹿の進路を塞ぐように動く。

 駿足の鈴鹿を、さらに瞬発力でねじ伏せるかのような。



 そりゃそうか。と、和希は思う。

 トオルは、相手の動きに合わせるのは上手いが、決して好きじゃない。

 その好きじゃないことをやってうまくいかなきゃ、好きな方をそりゃ選ぶ。

 好きな方。

 つまり、相手を自分の思うように動かす、という方を。



 結局じりじりと、鈴鹿は真後ろに下がる。

 いや、下がらされている。

 トオルの望む位置に。トオルの望む距離に。


 ふっと。トオルの前足が低く上がる。


(ローキック?)


 テコンドーにないはずのそれを、和希が思い浮かべるも。

 ただひゅっと足が回り。トオルが回転した。


 面食らう鈴鹿。

 360度回った勢いのままトオルは後ろ足を振り上げる。

 鈴鹿が下がって何もない、空中を。


(!)


 違う。跳んでる。

 回転と足を振り上げた勢いで

 トオルの体そのものが、ひゅるるんと空中を回転する。

 そしてスクリューの羽のごとく長く足が伸びて。



 パァンッ……



 宙に舞うこと、一回転半。

 後ろ回し蹴りのかかとが、鈴鹿の顔に入っていた。



「やめ!!」


 和希の号令よりも長い滞空時間で。

 まるで体重などないように、ふわっと着地する。

 どうだ?と得意顔でこちらを見て。



「なに…」「あれ……」


 皆、唖然として言葉がない。

 食らった鈴鹿も、何を食らったのかわかっていないだろう。

 まぁ。ここまで綺麗にやられたら、誰も何も言えないだろうな。


 和希は大きく息を吸った。



「赤、一本!!

 6対3。

 赤の勝利!!」



 和希は、トオルの腕を取り、ぶん、と高く上げた。


 こどものように、トオルが笑う。

 お前世界2位だろ、とはあえて突っ込まない。

 誰であろうが、勝つのは嬉しいことだから。


「あ、あの。

 い、いまの蹴り、何なんですか?」


 最初に和希に聞いてきたのは、意外にも神宮寺だった。


「540度蹴り」


「……え?」


「先に回転の勢い付けてから、跳んで空中で一回転半回って後ろ回し蹴り。

 でも、組手であんなに演武みたいに綺麗に蹴ってしかも決まるのは、初めて見たな」


「へぇ……………」


「すっごいですね、トオルさん!

 めちゃめちゃカッコよかったです!」



 和希と慶史からの賛辞を受けたのと勝ったのとで機嫌がいいらしいトオルは、もはや無敵の笑顔でつかつかと鈴鹿によると、問答無用で握手。そしてハグをする。



「お疲れ様!!

 ありがとうございました」


 

「………どうも」

 どちらかというと嫌そうな鈴鹿は、グイッと、突き放す。



「あれ、不完全燃焼?

 まだやる?」



(!!??)トオルの笑顔の意味が、若干違った?



「………そうですね。

 勝ち逃げされるのも気分があまり」


「よーし、じゃ次はテコ」ンドーのルールで闘おうか、までは言わせず、和希はトオルの口を塞いで押し退け、2人の間に割って入った。

 

「はい、終わり終わりッ。

 休憩終了!」


 むぐ、むぐぐぐ、と、大げさに和希の手と格闘をするトオル。

 お前それすぐ外せるだろ、とはあえて突っ込まない。

 たぶん突っ込み待ちだから。



(本気で、大人げないな………)



 最終的に勝ったのに。

 そんなに、さそり蹴り食らったのが悔しかったのか。

 かわいそうだがトオルのリベンジは却下だ。

 OKしたら鈴鹿がかわいそうなことになる。



「……わかった。わーかったから。

 もう君の出番は終わり。ね?

 大人しく待っててくれ」


 大型犬をしつけるような気持ちだな、と思いながら手を外して和希が言うと、コクッ、とトオルはうなずく。



「じゃー、待ってるから、後でな」


「うん、後で」



 大人しく、体育館地下の筋トレマシンコーナーの方に行くトオルが振りかえって手を振る。

 和希は手を振り返すか迷いつつ、一応振った。


 後ろから誰かがこちらに視線を向けていた気配はしたが、あえて無視することにした。



◇◇◇

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