サークラ美少女を護衛せよ(13)
◇◇◇
「………馬鹿なことをしたと、思ってるんでしょう?」
「多少は。
でもまぁ、すべてをめちゃくちゃにしてやりたい、と思う気持ちはわかる」
和希がコーヒーを買ってきて渡すと、紗紅は素直に飲んで、いらだちまじりに言葉を吐き出し始めた。
「大きなケガはありませんでした。それにお酒のせいか記憶が飛んでいて、何をされたかほとんど覚えていません。
この時代に、処女になんて価値を見出すほうがおかしいと思う。
だけど、私の意識を奪われて、私がされたくないことをされました。
それを怒るのはおかしいですか? サークル仲間の男の子を信用したのは自己責任ですか?」
「いいや」和希は、明確に否定した。しかし、紗紅の感情は落ち着かないらしい。
「膝丈のスカートなんて短くもないし。たとえミニスカートをはいてたって、そんなことされるいわれは誰にもないのに。
胸が大きいのはそんなに悪いことですか? みんな同じような服を着ていても、私だけ、胸があいてるとか誘ってるとか言われて」
「……キツいよね。わかる」
「私は、ただ、悪いことを悪いと認めてほしかった。
それだけなのに……」
いつ、どのような形で被害にあったのか。紗紅は具体的に語ろうとはしない。
どのタイミングで、加害者や部長との話し合いがあり、その音声の録音をしたのかも。
なぜ、警察に訴えるなどせず、今回の計画を立てたのかも。
和希も、聞こうとは思わない。
詳しく聞いたら、自分のほうが平静でいられない可能性があると思ったからだ。
自分用に買ったコーヒーに、和希はまだ口をつけていない。
紗紅がされたことを思うと、胃のあたりが、いまだに気持ち悪かった。
その一方で、後遺症がないと言う紗紅をうらやましいと思ってしまう自分も嫌だった。
「………途中までは、勝てたと思ったんです。
私の悪知恵だけで、集団にも、目上の人間の権威にも、男にも勝てた、って。だけど……」
ふいに、紗紅は、ジトっとした目で和希をにらんだ。
これまでにこやかな微笑みを常に浮かべてばかりの紗紅のそんな表情は、ちょっと新鮮だ。
「……闘えると、楽しいですか?」
「はい?」
「それはそれは、楽しいですよね。
1人で男の人を何人も倒せるほど、強いんですものね。
力も強くて」
その続きを、紗紅は声に出さなかった。
ただ、憎たらしい、と、その可憐な唇が動いていた。
それがなんだかかわいい。
ああ、もしかして慶史は、この紗紅を見ていたのかな、と、和希はふと思う。
壊したかったのは、サークル。ではなくて、集団の事なかれ主義の理不尽。でもなくて。
男というものの優越。でもなくて。
たぶん、紗紅が本当に壊したかったのは、力というものの優越。
腕力。暴力。学年上の人間の権威と威圧。集団の圧力。
勝ったかに見えた。
でも最後の最後。無敵の人になった集団には勝てなかった。
「今日は私、自分が闘える力持っててよかったと思ったよ? たぶん、慶史も」
「今井くんは……………私じゃなくて、三条さんを助けに来たんですよね?」
「いや、両方じゃない?」
ようやく胃のあたりが落ち着いて、和希はコーヒーを口にする。
「………ありがとうございます」
ぽつんと。
若干義務的な感じも否めなかったが、紗紅はお礼を言った。
「なんだったら、まだしばらくボディガード続けるよ?」
「今後は大丈夫です。
……できるだけ、今井くんと一緒にいるようにします。あと」
「ん?」
「今日のこと、詳しくは今井くんには言わないでいただいてもいいですか?」
「どうして?」
「私に、アレをした人、今日来た人たち以外に、もう1人いたんです。
その人」
紗紅は、和希をまっすぐ見つめ、つづけた。
「今井くんの、高校の先輩なんです」
「………!?」
言うと、紗紅は、くっ、とコーヒーを飲みほした。
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