サークラ美少女を護衛せよ(12)
「…………追ってきてる?」
紗紅を担いで走りながら、和希は、背中がわを向いている肩の上の紗紅に尋ねた。
ふわりとしたやわらかいスカートの生地が、和希の頬をくすぐる。布が勢いでめくれあがらないように、彼女の華奢な膝裏ごと裾を手で押さえる。
「……追って、きてます、ね」
突然のさらわれ体勢でも存外冷静な紗紅の声に、和希は「了解」と返す。
土曜日なので、大学のなかはひとけが少ない。
とにかく、ひとめにつくであろう大学の外へ出ることがマスト。和希は走る。
後ろから、男子の怒号が聞こえた。
走っておいかけてきているからか、ジリジリ近づいてくる。
男子に負けない足は持っているとはいえ、紗紅の体重が軽いとはいえ、さすがに人ひとり担いで走るのは、和希が不利だ。
「……ま、ぬ、まぁ!!!」
「待てゴラァ!!!!!」
背中にぶつかるぐらい追っ手の声が近くなった。
和希は早めに紗紅を地面に下ろし、その紗紅を背中にかばいながら、追っ手たち側に向き直る。
なかなかにすごい形相の男女が、次から次へと追ってくる。合計で、7、8名ほど。
……いや、電話しながら走ってくる奴もいる。助けを呼んでいる?ということは、もっと増える可能性があるのか。
「天沼さん、そのクツで悪いけど、大学の外まで走ってくれる?」
「どうするつもりですか?」
「多少怪我はさせるかも知れないけど、とりあえず黙らせる」
「……………………」
「どうした?」
紗紅の沈黙。さらに、すぐ目と鼻の先まで追っ手が迫ってきているというのに、紗紅が和希の背中すぐ後ろから動く気配がない。
やはり、ヒールで走って逃げるのは難しかったか?
追っ手たちが和希たちを囲むように、ジリジリと距離を測っている。臨戦態勢やむなし。和希は構えた。その時。
――――――――バッ、と。
和希の前に男が1人、躍り出た。
和希がついさっき見たばかりの服装の、和希より少し背の高い後ろ姿。そして、見慣れた後頭部。メガネのつるが見えてる耳。
追っ手たちに向けて、四尺二寸の、和希があげた木製の杖を構えていた。
「……慶、史………?」
「探しましたよ、和希さん」
いやいやいやいや、なんで探してる?
約束も何もしていないだろうに。
事情もなにも話していないのに。
「電話に出てから、確実に何かあったって顔をしていたのに、何も教えてくれなかったので。
俺が勝手に探しました。
一緒にいるということは、天沼さんの身にも何かあったんですね?」
「…………正解」
素手の女2人相手には、まだ戦意をたぎらせていた様子の追っ手たちだったが、武器を構えた男が1人入ってきたのには、とたんに及び腰になって、じり、と、うしろにさがりぎみになっている。
互いに顔を見合わせ、うまくいけば、このまま、引いてくれそうだ。
「…………お、おまえ、この、天沼が何をしたのか、知って……」
追っ手の男が、がらがら声で、慶史に言葉をぶつけようとする。
その鼻先へ慶史が杖を突きつけ、男が「ひぃっ」と情けない声をあげてうしろに下がった。
それをきっかけに、1人2人と追っ手たちがきびすを返し、去っていった。
全員が走って逃げていくのを見届けて、ようやく、慶史は杖を下ろして後ろを向いた。
「―――――天沼さん、荷物はどこに?」
柔和な顔とやさしい声で、鋭い質問をする。
めざとく、紗紅が手ぶらなのに気づいていたようだ。
「……文学部の、1階の大教室に」
「わかった。了解。
……取り返してくるので、和希さんと天沼さんは、ちょっと待っててください」
「ありがと。カフェテリアで待っとくよ
あそこなら土曜も人結構いるから。あと杖預かる」
「ありがとうございます。
じゃ。また後で」
慶史は和希に杖を渡すと、文学部棟めがけて走り出した。入学の頃よりもだいぶ速くなったその背中は、瞬く間に小さくなっていった。
◇◇◇




