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魔王の娘ですがマイペースに暮らしてます  作者: キイチシハ
第三章 獣人の国とウェンサ帝国編
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95話 森の中、出遭った。出会ったじゃない

 ヴァンさんの了解を得て魔の森を散策する。

「異常なかったから安心して入っておいでー」とお墨付きをもらったのだけれど、相変わらず陰湿な空気の森だ。

 一時期、禿げ森になったのが嘘のように木が生い茂っていて、昼間なのに薄暗い。

 ……木って十五年で天を突くような高さまで幹が伸びるものなのだろうか。


 ま、まあそれはさておき、今日はどっち方面に行こうかな。

 一応、転移魔法の拠点を増やすという名目があるので、なるべく偏らないようにしているのだ。

「うーん。よし、今日は真北側に行こう」

 魔物たちを驚かせない程度のスピードで森を駆け抜ける。

 人間に目撃されたらきっと怯えられる速さだけど、こんな森の中心には居ないので無問題。

 深入りすると人間には危険すぎるので、国境の近くで魔花・魔草を採取するか、危険度の低い魔物を狩って素材を集めるしかしない。わざわざ危険度の高い魔物を狙って突っ込んでくるような戦闘狂はいないのだ。


 そうこうしている内にかなり森の端に近付いてきたので、人間に出くわさないよう注意しながら歩く程度のペースまで落とす。

 お。第一村人ならぬ第一魔物発見。

 モッシャモッシャと魔草を食んでいる雷兎だ。

 見た目はまんま兎だけど、跳躍する時に雷を発生させる危険度Fランクの魔物である。


 可愛い! あのモフッと丸い尻尾がキュートすぎる!

 ソロリソロリと近付く私の顔はきっと危険度SSSに違いない。

 あともうちょっとで手が届くかという寸前、そう遠くない場所から聞こえてくる複数の足音。

 ん? と思った時には雷兎の姿はすでにそこになく、文字通り脱兎となっていた。


 ああーッ!!

 逃げられちゃったじゃん! 誰ですかこのやろう!

 魔力探知で音のする方に意識を向けると、感じ取れる魔力は全部で三十と一つ。

 先行する一つを追うように三十の魔力が追いかけている。

 先を行く方の魔力はそこそこで、残り三十は大したことはない。ないけど。

 どう考えても穏やかじゃなさそう……。


 こんな森で鬼ごっこをする酔狂な魔物はいない。いたら参加する。

 それに微かに人の声もしたような気がしたのだ。

 ……もしかして何かを討伐中だろうか。

 ダメだ。気になる。


 悩んだ末、好奇心には勝てず様子を見に行くことにした。

 場所は割と国境に近い辺り。

 この先の国はウェンサ帝国と言って、軍事力に重きを置いている武装国家がある。

 あまりいい噂を聞かないので正直関わりたくはない。

 なんでも独裁的な皇帝が統治しているとか何とか。


「逃がすな! 追え!」


 木々に身を隠しながら距離を詰めていると、男性の怒号が大きく森に響き渡った。

 少しだけ顔を出し伺い見れば、そこにいたのは武装した軍人らしき三十人。

 見覚えのある軍服のデザインは、確かウェンサ帝国のものだ。

 ミスティス先生の世界史授業の資料で見たことがある。


 となると、複数あった魔力の正体は魔物ではなく、人間だったらしい。どうりで弱い。

 一体、何を追いかけて――。

「!!」

 軍人たちの目線の先。

 そこにいたのは黄金色の王者。

 一頭の獅子が金色のたてがみを靡かせ疾走している。


 か、格好良いぃぃ……!!

 何あれ! ぜひともお友達になりたい!

「よし助けよう」

 武装国家とか知らん。もふもふを虐める者は許すまじ!


 しかし正体が知られると国際問題にもなりかねないな……。

 うーん。

 あの軍人たちの気を逸らせそうな魔物を連れて来て、その隙に助ける。とか?

 よし、これでいこう!


 さっそく転移魔法で魔の森中央に引き返す。

 中央部は森の中心とあって、魔物の強さも数も圧倒的なのだ。

 さてと、誰に協力してもらおうかな。森の北部にいてもおかしくない子を選ばなくては。

 おっ。ブラッドホーンがいる。

 決定。お仕置きも込めてAランク魔物にしてあげよう。

 それにあの子なら放置しても殺されたりしない強さがあるから安心だ。


 気取られないようブラッドホーンに近付き、そっと身体に触れまた転移する。

 鬼ごっこ現場よりちょっと離れたところに移動した。

 あまり近付き過ぎるとバレるかもしれないからこの辺で。

 人間の魔力探知の精度がいまいち分からないので、念には念を押してのことだ。


「ちょっとごめんね」

 ブラッドホーンに威圧をかけ、軍人たちの方に向かうよう誘導する。

 よしよし。そのまま真っ直ぐ進んでください。


「!? ま、まずい! Aランク魔物だ!」

「チッ、深追いしすぎたか。一旦引くぞ! この人数では敵わない!」

 目論見通り退散していく軍人三十人。

 転移魔法は使わず地道に走って逃げていく。あれ?


 ……人間って極々僅かな人しか転移魔法を使えないんだっけ。

 やばい。やり過ぎたかもしれない。逃げるのも遅いし。

 ま、まあ食事直後の子を選んだから満腹で襲わないでしょう! 多分。


 念の為に少しだけ見守っているとブラッドホーンが追いかける様子はなかったので、私は金獅子へと意識をシフトする。

 たてがみの一部が赤く染まっていたのが気掛かりなのだ。

 あれは血だと思う。


 姿が見えなくなった金獅子の魔力を追い、転移魔法で一気に飛ぶ。

 感知した魔力の少し先に着地した次の瞬間。

 金獅子の大きな前足がゼロ距離に迫り、そのまま踏み潰されてしまった。


 うん。猛スピードから急には止まれないものだよね。


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