94話 魔の森監視塔……のはず
午前の訓練を終えた私は、新たな日課となった魔の森探索に出掛けることにした。
目的は二つ。
転移魔法の拠点を増やすことと、もふもふハントの為だ。
後半の方が私的には重要である。
なにせ二十三年も経ったのに、モフモフは未だソラ一人。
もっと埋もれたいのに上手くいかないんだよね……。
手っ取り早く手懐けるには戦って勝つしかないしかない、というのが頂けない。
戦いたくないから防戦一方に徹していると隙をみて逃げられるし、危険度ランクの低い魔物は近寄る前に逃走される。この繰り返しなのだ。
何か他に好感度を上げる方法、教えてくださいグー●ル先生。
「じゃあ行ってくるね」
「ん。早く帰って来て」
ソラはお留守番。
午後からも訓練がある為だ。魔法の精度を上げる特訓をしているのである。
こっちはミスティス先生に習っている。
私が卒業して選手交代となったのだ。先生も元気にオネェやってます。
「ミスティス先生によろしくね」
「分かった」
見送ってくれるソラを残し、転移魔法で移動する。
目指すは魔の森監視塔だ。
魔の森監視塔はその名の通り魔の森を監視する為に建てられた拠点で、森とうちの国との境にあり、大将の階級を持つ軍人を筆頭に五十名が常駐し任務に当たっている。
森に住む魔物の大繁殖など異常が起きていないか常に見張り、自国に魔物が進行しようとする気配があればそれを阻止する役割を担っているのだ。
魔の森はどの国の領土でもないので、うちの国に限らず各国が同じような体制をとっている。
それでも手に負えなくなったら父様に依頼する、という感じ。
「こんにちは」
一瞬で到着し、監視塔入口の見張り役二人に挨拶をする。
魔の森に入る前は毎回ここにいる大将に一言断ってから入っているのだ。
いや転移魔法ってほんと便利。飛行機とか全然要らない。
「あ、リリ様だ。おつでーす」
「いらっしゃいッス」
実にゆるく軍服を着こなした見張りの二人が挨拶をしてくれる。
どちらもシャツのボタンは上から三番目まで解放され、おしゃれにヘアセットされた青年だ。
魔の森監視塔に常駐している軍人さんは、皆こんな感じの人たちなのである。
ここって歌舞伎町だっけ? と毎度錯覚する。
魔王直属軍の中でも特にオシャレで美形な人たちが集められているのだが、恋愛関係で揉めた人の左遷先じゃないことを願いたい。
「お邪魔してもいい?」
「どーぞ。でも今、大将いないよ?」
「あれ、そうなんだ。どうしよう、すぐ帰って来る?」
「そッスね。もう戻って来る頃合いとは思いますよ」
「じゃあ中で待たせてもらおうかな……」
それとも伝言を頼めばいいかなと考えていると、サラリと髪を一房取られる。
「それより俺と一緒にお話しない?」
「俺たちな。駄目ッスか?」
キラキラフェイスで見つめてくる二人。私はシャンパンを入れるべきだろうか。
そんなアホなことを思った矢先、のしっと頭に重みを感じた。
「こーら。リリを口説くの禁止って言ったろー」
私の頭に腕を乗せ、間延びた口調で注意する新たな青年。
魔の森監視塔の最高責任者であり、大将である軍人――ヴァンさんだ。
「ちぇー。いいとこで帰って来るんだもんなぁ」
「お帰りなさいッス」
「ヴァンさん。こんにちは」
「おー」
「あの、重いです」
「んじゃこうするー」
ふわりと私をお姫様抱っこの体勢へ。あれ?
「いやいや、それじゃヴァンさんが重いです!」
「えー? 羽根ぐらい軽いけどー?」
すぐ目の前で色っぽい青年がコテンと首を傾げる。
ヴァンさんはアメジスト色をした少し気怠げな瞳と、薄紫色の髪を片側だけ耳が出るように編み込んだ髪型が特徴的な魔人だ。
クラブ魔の森監視塔ナンバーワンです。いや違うけど。ただの監視塔だけど。
「ヴァンさん、どこに行ってたんですか? 女性のところ?」
「なんでそうなるのー」
両脇に女性を侍らせる絵が浮かぶもので。
だって出会って一分も経たずこの体勢だよ……?
「森の定刻巡回してきたのに酷いなー」
「そうだったんですか。お疲れ様です。余計に疲れますからぜひとも降ろしてください!」
「もうちょっといいじゃんー」
「「大将……」」
口を尖らせ文句を言うヴァンさんを部下二人がジト目で見る。
「ほらヴァンさん! 上司の威厳が下がってますよ!」
「えー、最初からそんなものないしー」
「そっちのが問題だよ!」
「俺そういう縦社会っぽいの嫌いー」
なんで軍に入ったんだろう、この人。
それでちゃっかり若くして大将になってるとか抜け目ないな!
ゆとり型天才恐るべし。




