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88話 決着

 セレディさんが私の髪を掴み、無理矢理に上向かせる。

 途端に反対の手で思いっ切り殴られた。

「……っ!」


 痛いのに声が出ない。

 ただ切れた口内から溢れ出る血だけが、重力に従いボタボタと落ちていく。


「大人の世界に首を突っ込むからこうなるのよ」

 右に左にセレディさんは長い爪で私の頬を叩き続ける。

 顔のあちこちが切れ、叩かれる度に赤い飛沫が宙を舞う。それでも気絶しそうになるのをなんとか堪えた。

 気絶すると魔法が解けてしまう……!


「随分と粘るわね」

 わざといたぶっているようにしか思えない言い方でセレディさんが嘲笑う。

「ガウッ!!」

 ソラがセレディさんに噛み付こうと悪魔たちを振り解いて向かって来るけれど、青髪の悪魔の火魔法によって弾き飛ばされてしまった。


「……!!」

「あら、いい表情するじゃない。大事そうにしていたものね。ならもう少し遊んであげるわ」

 嗜虐的な笑顔を浮かべ、青髪の悪魔と共に無数の火炎球を出現させる。

 やめて、と声にならない悲鳴を上げるも、ソラに向かって無情に放たれた。


 ソラは空中を翔るように避けるものの、数が多過ぎていくつも被弾してしまう。

「ギャインッ!!」

 黒い煙を上げながら地上に落とされるソラ。

 ダンッと派手な音を立てて地面に叩きつけられ、すぐには起き上がれず弱々しく前脚が空を蹴っている。

「今更泣いたって許さないわよ」

 血と涙でぐちゃぐちゃな私の顔を再度セレディさんが殴ろうとした時、大地を割るような轟音が響き渡った。


 私が張った氷の壁も耐え切れずバキンッと砕ける。

 同時に衝撃波が襲い掛かり、セレディさんたち諸共耐え切れずに吹き飛ばされた。

 青髪の悪魔の手から離れた私も例に漏れず飛ばされる。

 動けない身体では何の抵抗もできず、私だけひときわ遠くへと飛ばされ続けてしまう。


 こんな状態では回避はおろか、受け身だって取れない。

 ユイルドさんが最初に木々を切り倒したエリアを抜けたら必ずぶつかる……!


 身を守ろうと魔法を発動させても焦りが邪魔をして、中途半端な氷の防御壁が出来ては霧散した。

 駄目だ間に合わない……!

 すぐ近くに迫る大木。

 骨折で済めば御の字。それくらい凄まじいスピードがついている。

 衝撃に備えて目を瞑る。

 いよいよ木に叩きつけられるかという直前、ふわりと嗅ぎ慣れた良い匂いが私を包んだ。


「遅くなってすまない。リリ」


 暖かい感触と切ない声にソロリと目を開ければ、間近に映る今にも泣きそうな顔をした兄様。

 横抱きの状態で私を受け止めてくれていた。


「…………!」

 兄様と叫ぶも声にはならず、唇さえ動かせない。

 それに異変を感じ取った兄様が鬼のような形相に変わった。

「何か盛られたのか。……ユイルドは何をしていた。リリをこんなにするとは」

 ドンッという鈍い音と同時に辺り一帯が蒸発して新地になる。

 激おこな兄様のせいだ。

 や、やばい! このままではせっかく助けた天狼までピンチに!


「いや、その前にリリを回復しないとな。【復元治癒】」

 七色の粒子が私を包み、無数にあった傷が嘘のように一瞬で消えていく。

 神経毒も抜けて完全に元通りだ。さすが古代魔法。なんで使えるの。


「ありがとうございます、兄様!」

「礼は要らない。むしろ遅くなり過ぎた。すまない」

「いいえ、いつも助けに来てくれるなんてヒーローみたいです!」

 格好良すぎるよ兄様。

 率直な感想に蕩けるような笑顔になる兄様だったけど、次の一言で無表情に変わった。


「兄様、お礼はまた後ほど改めて。すみませんが天狼たちがいる辺りまで戻ります」

 ソラがどうなったのか不安で堪らない。

 他の天狼たちは飛ばされてもすぐに体勢を整えていたけれど、ソラは地面に倒れていた。

 ダメージの上塗りになってしまっては、命の危険だってあるはずだ。


「駄目だ。許可できない」

 腕の中から抜け出そうとした私を、兄様は逃がすまいと手に力を込める。

「放してください!」

「…………」

「兄様!」

「……ずっとこのままだと約束できるなら、連れて行ってやる」

 姫抱っこのままでいろと?

「何でもいいです! 急いで!」

「分かった」

 ヒュンッと転移魔法で数百メートル先に飛ぶ兄様。


 戻った先では大地が大きく放射状に抉れ、あれだけ氷壁の外にいたはずの悪魔が跡形もなく消えていた。

 閉じ込めた悪魔もすでに生きていない。

 悪魔だった何か、に変わっている。

 そこに立っているのはユイルドさんただ一人。

 セレディさんと青髪の悪魔だけはなんとか動いていたが、ユイルドさんの手によって半殺しに遭っていた。……なんか身体のパーツが足りない。


「ちょ、ちょっとストップ!!」

「あァ……?」

 返り血まみれの鬼が迫力満点に振り向く。こ、怖過ぎる!

「も、もうその辺でいいでしょう……?」

「ユイルド。貴様、リリを危険な目に遭わせて何をしていた」

 兄様!? 今それ訊く!?


「っせぇな。オレは防衛任務に向いてねぇんだよ。皆殺しなら得意だけどな」

 とんだ破壊神がここにもいた。

 あの衝撃波はユイルドさんのせいだったらしい。

 氷の防御ができたことで、作戦通り加減なしに力を振るい殲滅させたんだとさ。

 いや威力! 巻き添えが半端なかったよ!

 もうこの森、魔の森じゃなくて禿げ森だからね。


「というか、ソラは……?」

「ガウ……」

 ヨロヨロと私に近付いて来る焦げたソラ。

 大分ボロボロになってはいるけれど、ちゃんと自分の足で歩いている。

 致命傷になり得るような深い傷も見当たらない。

 思ったよりも元気そうで安心した……けど全然よくない!


「兄様、降ろしてください!」

「駄目だ。約束だろう」

「じゃあソラを治療してください!」

「…………【治癒】」

 あまりの必死さだったのか、兄様は案外すんなり治癒魔法を掛けてくれる。

 途端に辺り一帯を光の粒子が包み、ソラどころか近くにいた天狼たちまで治療された。


「おい、テメェ……。クソ悪魔まで治してんじゃねぇよ」

 ドスの効いたユイルドさんの声に振り返ると、セレディさんたちまで回復しているようだった。欠損したパーツ以外、元気そのものだ。

「悪い。つい魔力が強過ぎてな」

「自慢か。あァ……?」

「落ち着け。もう一度最初から拷問できるぞ」

「ならいい」

「全然よくないよ!?」

 とりあえず全力で宥めすかした。


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