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07話 キリノムくん

「リリシア様、何を作りますか?」

「うーん。簡単なものしか……ってキリノムくんは仕事に戻って! お城で働く人たちの昼食が間に合わなくなるよ!」


 ここの調理場の人たちは魔王家専属というわけではなく、城勤め何百人分の食事も作っている。

 調理場に併設されている食堂で提供しているのだ。

 その味は元・日本人の私でも物足りなさを感じないどころか、めっちゃ美味しい。


「平気ですよ。王家の皆様の分は終わっていますから。あとは僕以外の人員でもなんとかなります」

「う……。ごめんなさい。やっぱり都合を訊いてから来るべきだった」

「いいえ、リリシア様ならいつでも構いません。気軽に来てください。ね?」

 て、天使がおる……! 本当は悪魔だけど。


「ん? 待って。じゃあ兄さまのも作ってるってことだよね?」

「あー……。まあ、はい」

「じゃあ私が作っても無駄ですね……」

「そんなことないですよ! 女の子の手料理は別腹です!」

 え、男子ってそんな別腹設定あるの? 初耳。


「絶対に喜びますから。作りましょうよ、リリシア様」

「うーん。……まあ簡単なものしか作れないし、料理が一品増えると思えばいいか」

「きっと最高の一品になりますよ」

 私を安心させるようにふわりと笑うキリノムくんはやはり天使。

「ありがとうキリノムくん。大好き」

 今世では思ったことをちゃんと伝えていこうと思っている。

 前世の両親のように、あっけなく伝えられなくなってしまわないように。

 だから多少恥ずかしくてもガンガン言うよ!


「……僕は明日死ぬんだろうか?」

「死なないよ!? 号泣しながら不吉なこと言わないで!?」

 ダバーッと滝のような涙を流すキリノムくん。

 顔をハンカチで拭いてあげたいのだが、背が高くて届かない。

 差し出せば手を振って拒否された。


「ありがとうございます。平気です」

 どうするのかと思えばコックコートの袖でぐしぐしと拭う。いいのかそれ……。

「さあ、張り切って作りましょう!」

「はい! よろしくお願いします!」

 早くしないとお昼が来ちゃうしね。多少のことは気にしないよ!


「その前に踏み台が必要ですね。調理台に届きませんから」

「あ、そうだね。何かある?」

 大きくて頑丈そうなシンクは頭の遥か上だ。手を伸ばしたって台の上まで届かない。大人用に設計されてるから当然だけど。


「ではこれを」

 キリノムくんは空間魔法を使い、何もないところから淡いピンク色のファンシーなデザインの踏み台を取り出す。

「ドレスも汚れてしまいますね」

 続いて真っ白なフリフリ子どもサイズエプロンを出す。随分と準備が良い。

 いや良すぎる。


「なんでこんなの持ってるの? 独身だよね……?」

「こんな日が来るように願望を込めて買ったものです」

 そういう趣味じゃなくてよかったと喜ぶべきとこなのだろうか。


「よ、よかったね……?」

「はい! リリシア様、少しだけ両手を上げてください」

 ウキウキ笑顔のキリノムくんにエプロンを着せられる。た、高そうな生地だ。

「はぁ……。可愛すぎる……」

 後ろの紐も結んでもらい完成した姿に、色っぽい溜め息を吐きウットリ見つめてくるキリノムくん。

 こ、これは訊かねばなるまい。


「……キリノムくんってロリ……小さい子が好きなの?」

「え? 嫌いですよ?」

「ええええ!? 本当!?」

 じゃあその反応と事前準備はなんだ!

「そこら辺のガキなんて砂利同然ですね。どうでもいい。だけどリリシア様は別です。ディートハルト様も可愛かったですが」


 後半部分は激しく同意する。兄さまの幼少期はさぞかし可愛かっただろう。見たかった……!

 キリノムくんはその頃から城勤めなんだっけ?

 なら私のことは親戚の子が可愛いみたいなもんか。深くはツッコむまい。


「エプロン洗って返すね」

「そのままでいいですよ」

 ツッコむな進まないぞ!


「はい、調理を開始します! サンドイッチが作りたいです!」

 無理矢理話を切り替える。

 そういえばこの世界、不思議なことに物の呼称が地球と共通だったりするんだよ。

 存在が無いものもあるけど、両方の世界にあるものは名称が同じ。

 だから『サンドイッチ』と言えば、パンで具材を挟んだお馴染みの料理を指す。


「サンドイッチですね。中身はどうしますか?」

「うーん。兄さまはお肉が好きだから、それを中心にしたいんだけど」

「ではブラッドホーンのステーキを挟みましょう」


 説明しよう! 『ブラッドホーン』とは、長く鋭い角で刺し殺し辺りを鮮血に染め上げるという、危険度Aランクのバカでっかい牛みたいな魔物だよ。


「いきなりドえらい食材!!」


 魔物には危険度というものが設定されていて、最高はSSS、最低はGとなっている。英語はないのになぜかアルファベット順という謎。

 エプロンみたいに外国語の固有名詞もあったりするし、概念も通じる。

 さっきバルレイ将軍に「ワイルド」と言って通用したのもそのせい。

 地球と創造神が同じなのだろうか。その辺はよく分からない。


 ともかく危険度は魔族と人間の共通認識の基準だ。

 共通認識と言っても、人間が協議して決めたものを魔族が「あ、そう」ぐらいの感じで了承してるだけらしいんだけど。

 その基準で言うとAは上から四番目。

 人間だと確か騎士団総員で倒すかってレベルだ。

「新しい包丁の切れ味を試したくて、昨日狩ってきたんです」

 そんな「一狩り行こうぜ!」みたいなテンションで!?


 人間と魔族じゃ実力が乖離しているとはいえ、これはどう考えてもキリノムくんの強さが異常だろう……。

 

 うん、まあ気にしだすと一向に進まないから私はサンドイッチを作るよ。


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