表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/174

87話 攻防

「……【氷狼!】」

 天狼の群れを襲っている悪魔たち目掛けて魔法を放つ。

 十人ほどの悪魔が吹き飛ばされ氷漬けとなり、その隙に群れの前へと躍り出た。

 先頭に立って奮戦していた大きな天狼が、訝しげな視線を送ってくるのを感じる。

 行動や体格からして、この個体が恐らく群れのリーダー……天狼族の王様だろう。


「悪魔が手出しできないよう結界を張ります。少し時間が掛かるので、ソラと協力して持ち堪えてもらえますか」

「グルルル……」

「不満なら後で聞きます。どうかお願いします。ソラも」

「ガウ……」

 両者は顔を見合わせると不満そうにフンと鼻を鳴らす。

 ソラが群れを離れてから五年経っているけれど、気持ちの変化はないのだろうか。

 ピリピリとした緊張感が互いを繋いでいる。


「私に攻撃系魔法は効きません。だから放っておいてもらって大丈夫です。仲間の安全を最優先にしてください」

 私の提案に大きな天狼はもう一度鼻を鳴らす。

 攻撃してくる様子はないので同意と思うことにした。


「じゃあいきます!」

 目を閉じ集中する。

 練習ではドーム型になる前に霧散するか、形成されてもすぐに解けてしまっていた。

 でもそれでは駄目だ。

 ユイルドさんの攻撃に耐え得る強固なものにしなくてはならない。

 初心者に無茶ブリしてくれる。

 でもやる。できるまで何度でも!


「……【我が身に宿る魔力よ、意志に従い我と此の者らを守れ。結界!】」

 ブワッと半透明な膜が左右から半円状に形作られていくも、結合することなく途中で霧散してしまう。

 失敗だ。

「させるか!」

 集中が切れたところを案の定、悪魔たちが襲い掛かってくる。

 でも無視してまた目を閉じる。

 殺す気がないなら致命傷は与えてこない。だったら放置して結界を張ることに集中する。時間がないのだ。


「ガウッ!!」

 ソラと思しき一吠えを筆頭に、天狼たちの吠える声が重なる。

 ナイフのような鋭いものが私の手足や側頭部を掠めていくのも感じる。

 でも集中を切らさない。

 今度こそ成功させる!


「……【我が身に宿る魔力よ、意志に従い我と此の者らを守れ。結界!】」

 だけど思いとは裏腹に、二度目も同じ様な結果になってしまう。

 急げ時間がない……!

「少し大人しくしていてください」

 焦る私の目の前に、怜悧な印象の青い髪の悪魔が突然現れた。

 直後にズブリと嫌な音を立て、首に何かを突き立てられる。


「っ……!!」

 悪魔の手から地面に投げ捨てられたのは、注射器に似た小さな容器。

 中身はすでに空で、何が入っていたのか分からない。

「安心してください。ただの神経毒ですよ。死なれては困りますので量は調節していますが」

 反射的に距離を取ろうと足に力を込め覚える違和感。

 すでに力が入らなくなりつつあり、すぐに意志に反しドサッと地面に倒れ伏した。


 なに……これ。まるで身体が言うことを聞かない。

 自分の身体じゃないみたいに動けない……!


「さて。お姫様は頂いていきましょう」

 私の両手を纏めて上に引っ張り、ブランと片手で持ち上げる青髪の悪魔。

 ユイルドさんが遠くから私の名前を叫んでいるのが聞こえるけど、意識はあるのに口が動かせず返事ができない。

 ソラもこっちに来ようとしているが、連携して邪魔をする悪魔たちに阻まれているのが青髪の悪魔越しに見える。


「当分動けませんよ」

 荷物でも担ぐように私を抱えると、青髪の悪魔はフッと笑い勝利宣言をする。

「我々の勝ちです」


「よくやったわ」

 セレディさんが上空から降りてきて、青髪の悪魔にすり寄る気配を感じた。

 合図を送っていた相手はこの悪魔だったのだろう。


 せっかくセレディさんが近くに来たのに、私のせいでゲームセットとか冗談じゃない……!

 弱い自分に腹が立ち、瞬間的に滾る魔力を解放しそうになる。

 …………駄目だ、落ち着け。冷静さを欠いた時点で負けだ。

 暴走している場合じゃ――。


「残った天狼はまあいいわ。充分捕獲できたことだし」

「では帰還しますか」

 転移魔法を発動させようとするセレディさんと青髪の悪魔。

 でもそれは叶わなかった。

「っ!? 氷魔法!?」

 パキパキと足元から生じた氷が、地面に縫いつけるように二人を留める。

 私の魔法だ。

 二人の注意が足元に向いた瞬間、ありったけの魔力を注いで空中に氷の壁を作り、直径十数メートル内にいる者をまるごと閉じ込めた。


 いわば氷バージョンの結界。


 正規の結界を張ることに固執し過ぎていた。

 不慣れな魔法を土壇場で使うより、こっちの方が正確で強度も遥かにある。

 理性をフッ飛ばした時の光景を思い出しての作戦変更だ。


 身体が動かなくても魔法は発動できる。

 詠唱は集中力とイメージ、魔力のコントロールを高める為の予備動作にすぎない。

 言葉にならなくても問題はないのだ。

 絶対に逃がさないよ。


「――やってくれたわね」

 セレディさんの声に狂気が滲んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ