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84話 隠し玉

軽い残酷描写が含まれます。ご注意ください。

 半透明の膜の中。

 そこはあまりにも酷い戦場だった。


 飛び交う多種多様な攻撃魔法。

 地面は抉れ、木々は燃え盛り、巣穴があっただろう斜面は暴かれたように大きく崩壊している。

 さらに天狼の血や体毛が宙に舞い、噛み千切られた悪魔の肉片が血だまりと共に点在し、必死に抵抗する小さな天狼から次々と拘束されていく。


 ――地獄だ。

 思わずギリッと奥歯が鳴る。


「……ユイルドさん。結界って、張った本人以上の魔法で攻撃するか、維持するのも無理なほどの負荷を掛ければ解けるんですよね?」

 ミスティス先生の授業で習ったこと。まだ実践経験はないけれど。

「ああ」

「つまり全力でブッ壊せばいいってことですね」

「そういうことだ」

 ユイルドさんは結界を見つめたまま大剣を構え直す。


 バルレイ将軍とは反対の配色をした派手な剣だ。

 赤褐色の刀身の中央に一本の黒いラインが入っていて、私の背丈よりも大きい。

 赤黒い血で汚れてなければ綺麗なのに。


「じゃあ、やんぞ!」

 言い切る前に跳躍し、ユイルドさんは思いっ切り体重を乗せ上から大剣を叩きつける。

 だけど鈍い音を立てるだけで、ヒビ一つ入らない。

「チッ。数人で重ね掛けしてやがんのか堅ぇな!」

 目にも止まらない速さで斬撃を刻んでいくも、綻ぶ様子がほとんどない。

 結界は数人で張り多重の層にすることで、強度を飛躍的に増すことができる。

 これをされると破るのは困難。

 うちの城でも採用している方式だ。


「ガウッ!!」

 ソラもユイルドさんに続き、鋭い爪を突き立て牙で噛み砕こうとするけれど、変化はない。

 ……物理攻撃には強いのだろうか。

 なら魔法特化型の魔人である私が頑張らなくては。


「ユイルドさん、ソラ! こっちに戻って来てください!」

「あァ!?」

「魔法で攻撃します! 習得したてなので、そこにいたら多分巻き込みます!」

 二人だけを巧みに避けて攻撃する余裕はないのだ。

 ただ目の前にぶつけることならできる。

 ユイルドさんは少し考えた後、言う通りにしてくれた。ソラもそれに従う。


「避けなきゃならねぇほど強力な魔法かよ」

「いえ、ただのノーコンです。痛ぁっ!」

 ノータイムで脳天に手刀が振り下ろされ、ジワッと涙が出てくる。酷い!

「……まあいい。やってみろ。魔法の方が有効そうだしな。そんでテメェは毎度毎度、噛み付いてくんじゃねぇよ」

 ガブリと腕に牙を突き立てるソラを振り払いながら、ユイルドさんがゴーサインを出してくれる。

 チョップの恨みは今後に取っておいて、目を閉じ集中し魔力を高めた。


 短く息を吐き、ミスティス先生の授業でやったことを思い浮かべ、頭の映像と同じようになぞる。

「……【穿ち砕け。氷狼!】」

 開眼すると同時に形成される五メートル級の氷の狼。

 勢いよく結界に向かって跳びかかり爪を立てると、大きな口で噛み付いた。

 よし、成功だ!


「…………な、んだそれ」

 ユイルドさんが驚愕の表情で発動した魔法を見ているのが、視界の端に映る。

「ソラの将来を模した必殺技です。一番イメージしやすかったので」

 喋りながらも魔力を注ぎ続けるのをやめない。

 やめた途端に消えてしまうのだ。


「はっ……コイツも規格外かよ」

 何か言われた気がしたけど、呟くような声だったので聞き取れなかった。

 あまり喋っていると集中が切れそうになる為、訊き直さず全力を注ぐ。

 魔力だけじゃなく、命すら削る覚悟で。


 額にジワリと汗が滲んできた頃、結界の一部がパキンと音を立てて砕けた。


「!! おい、そのままもうちょっとだけ耐えろ!」

 それに気付いたユイルドさんが叫ぶと、懐から小瓶を取り出して一気に呷る。

 何をするのかと思った瞬間、黒い角が赤く変色し両犬歯が鋭く伸びた。

 長い後ろ髪も宙を舞うようにユラリと揺らめき、まるで幽鬼の如く妖しさを纏う。

 本でも見たことのない形態だった。

 姿が変わったユイルドさんは、私の魔法を避けながら結界へと猛スピードで駆け出していく。


「ぶっ壊れろオラァアア!!」

 神秘的な姿に似つかわしくない乱暴な発言と共に跳躍し大剣を振り下ろすと、立っているのも困難なほどの衝撃波が突き抜けた。

 百八十度前方全ての木々が今度こそ木端微塵に弾け飛び、パァンッと結界が砕け散る。

 さすがにこの負荷には耐えられなかったらしい。

 大剣の着地点である地面も豪快に割れてしまったぐらいだ。

 あまりの事態に、結界の中にいた悪魔たちも攻撃をやめ固まっている。


 ……え、ええええええ!?


 ビックリして思わず私の魔法も消えてしまった。

 ユイルドさんの後ろにいなきゃ死んでたよ! 物理攻撃は効くからね私!

「――よし。行くぞ」

 神秘な鬼ヤンキーへと進化したユイルドさんは、何食わぬ顔で指示してくる。

「ちょ、その姿は何ですか!? 何飲んだの!?」

「うるせぇ。説明は後だ」

 くっ! 後で質問攻めにしてやる! 格好良すぎだよソレ!


「……ソラ、行こう」

「ガウ」

 威風堂々と敵陣を突き進むユイルドさんの後に続く。

 誰も動かず警戒態勢を取る中で、一人の悪魔が立ち塞がった。


「なっ、何ですか貴方!」


 動揺を隠し切れない様子で糾弾してくる、紫髪を一つに纏めた美人。

 セレディさんだった。


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