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82話 暗い道のり

「ガウ」

 どこに進むべきか決めかねていれば、ソラが私たちに向かって吠えた。

 何かあったのかと思ったら、ついて来いとでも言うように少し前に出てクルリとこっちを振り返る。


「ソラ、場所が分かるの?」

「ガウ」

「よし。なら案内しろ」

 ソラはコクリと頷くと、時々立ち止まり空気を吸って匂いを確かめながら歩いて行く。

 なんだか警察犬みたいだ。

 賢く可愛い後ろ姿に萌えそうになる衝動をなんとか鎮め、ユイルドさんに気になっていることを訊いてみることにした。


「ユイルドさん、ソラが噛んだ腕は大丈夫ですか? 一応、甘噛みには見えましたけど……」

「あ? あー、オレは物理攻撃無効だ」

「そうなんですか!? バルレイ将軍と同じですね」

 さすが将軍のDNA。外見も似てる。


「お前は耐性とかどうなってんだ。先に教えとけよ。これから戦争おっ始めるんだからな」

「戦争、ですか……」

「殺られる前に殺る。魔族の基本だろうが」

「最後通告もドブに投げ捨てた基本ですが、悲しき事実ですね。私は攻撃系魔法無効、相性が良い属性は氷です。物理攻撃は普通に効きます。結界は練習中で上手く張れません」

「へぇ……」

 ユイルドさんは値踏みでもするように私をジロジロと見下ろしてくる。


「な、何ですか」

「そんなガキの内から魔法無効とか生意気だぞクソガキ」

「二回も言った! ユイルドさんは物理攻撃無効以外に何があるんですか?」

「教えねぇ」

「戦力把握は!?」

「オレが把握してればそれでよし」

「いや全くよくないです。情報共有大事! 報・連・相ですよ!」

「うるせぇな。しつこいとその口塞ぐぞ。腹パンで」

 口どころか意識ごとじゃん。いいよもう!


 早々に訊くことを諦め、一足先を歩くソラに目を向ける。

「……ソラ大丈夫かな」

 迷いなく進んでいるけれど、心の中はどうなんだろう。

「ああ? 何がだ」

「すごく今更ですけど、冷遇してきた群れのところに行くわけじゃないですか。戻りたくないって以前、言っていたので……」


 天狼は個体数が減少していて、もう何十年と前から一つの群れしか存在していないらしい。

 だから今向かっているのは、ソラの育った群れで間違いない。

 嫌な思いをしたところに自らの足で向かうことになるのだ。


「アイツが自分で決めたんだ。なら外野がゴチャゴチャ言うな」

「そういうものですか?」

「意志を否定することになるだろうが。それが嫌なら黙っとけ」

 ユイルドさんはぐしゃぐしゃと私の頭を乱暴に撫でる。

 ……知れば知るほどユイルドさんは良い人だ。

 初めて会った時は理論攻めにされたけど、あれは多分、私のことを量っていただけなのだろう。

 その後は何だかんだ言って、こうして面倒を見てくれていたりする。

 もう頼れるお兄ちゃんみたいな存在だよ。


「にしても、妙だな」

「何がですか?」

「こんだけ歩いてんのに、魔物の一匹にも遭遇しねぇ」

「魔の森って相当大きいですよね? そんなにすぐ出遭わないものなんじゃないんですか?」

 なにせ世界地図の約三分の二を占める大きさなのだ。

 まるで魔の森が世界の中心で、周りを取り囲むように存在している国が付属品やおまけに感じるほど圧倒的な面積差がある。


「各国との境界辺りならそうかもしれねぇが、オレが転移して来たのは国境と森のド真ん中との中間地点。それなりに魔物はいるはずなんだよ」

「へぇー……」

「悪魔どもが魔物除けを相当バラ撒きやがっ――」

「ユイルドさん?」

 言葉を途中で止め、ユイルドさんは前方を厳しく睨む。

「ガウ」

 ソラも振り返り、もうすぐだとでも言いたげに吠えた。


「この先に魔力が集中してる。おそらくそこだ」

「えっ、私には同じ様な森の光景がずっと先まで続いているようにしか見えないんですけど……。音だって何も聞こえませんし」

 どれだけ先の光景が見えているの?

「普通の結界の他に、防音結界でも張ってんだろ。でも気配は誤魔化せねぇ。行くぞ」

 ユイルドさんは私を脇に担ぐと物凄いスピードで走り始める。

 ソラもそれに遅れることなくちゃんと併走してきていた。す、すごい。


「あの、」

「黙ってねぇと舌噛むぞ」

 更にグンとスピードを上げるユイルドさん。

 一切の音を立てずに木々の間を疾走する。

 少しの間駆け抜けると、物陰に隠れることなく堂々と敵の前に躍り出た。

 結界の周りを見張るようにして複数の悪魔が囲んでいる中にだ。


「ええーー!? 普通は一旦隠れてタイミング図るとかしない!?」

「どうせ魔力探知でバレんだろうが。意味ねぇんだよ」

 私を降ろすとユイルドさんは途端に鬼の姿に変貌する。

「誰だ!!」

 戦闘モードの悪魔の一人が誰何した次の瞬間、その人は答えを聞くことなく激しく後方にブッ飛ばされた。


「んなこと訊いてる暇あんのか。あァ……?」

 問答無用で殴りつける鬼ヤンキーの仕業だった。


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