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06話 調理場という名の○○

 調理場って言うかバトルスタジアムでは?


 それがここを訪れた私の感想である。

 何か大型の獣からザバーッと豪快に流れていく血液(血抜き)。

 高速で皮を剥がされ刻まれていく肉塊(下処理)。

 ゴオオオッと燃え上がる火柱(加熱)。

 かと思えば吹き荒ぶ氷塊(冷却)。

 なんだこれ。


「貯蔵庫は奥だったか」

 マイペースですね将軍! 上級魔法の乱舞も総スルーだ。


「あれ? リリシア様にサイファード将軍じゃないですか。珍しい組み合わせでこのような所まで来られるとは、どうされました?」


 凄絶な現場を背景に、ニコニコと微笑み出迎えるコックコート姿の一人の青年。

 桃色のふんわりした髪と瞳をした穏やかそうなこの人は、若き料理長であるキリノムくん。

 若いと言っても四百歳はいってるよ。ちなみに魔族の成人は百五十歳。


「えーっと、ちょっとお願いがあって来ました」

「オレは酒を貰いに」

「お酒の件は陛下から伺ってますよ。隣国のクソビッチ王女の護衛報酬として納品されたやつですよね? 奥の貯蔵庫に入ってますからお好きにどうぞ」

 笑顔で辛辣! キリノムくんはこういう人です。嫌いな人には毒舌。


「そんじゃ貰ってくわ」

 将軍はフワリと私を地面に降ろしたかと思うと、大きな手で頭を撫でてくる。

「一人で大丈夫か?」

「はい、何も問題ないです!」

「そうか。帰りは送ってやれんが」

「平気ですよ?」


 昼のピーク時さえ避ければ、通路を歩く巨人のような大人たちの波に流されることもないだろう。多分。


「ご心配でしたら僕がお送りしましょう」

 過保護紳士なバルレイ将軍にキリノムくんが申し出てくれる。

 ありがたいけど料理長にこの場を離れさせるのはダメでしょ。

「大丈夫だよ。隅っことか通って帰るから」

「僕と歩くのは嫌ですか……?」

「滅相もない! 光栄の至り!」

「ふふっ。それはこちらのセリフですが決まりですね」

 なんか丸め込まれた。キリノムくんも捨て犬みたいな顔が上手い……。


「じゃあ頼んだ。またなリリシア」

「はい、ありがとうございました。お酒飲み過ぎちゃ駄目ですよ?」

「りょーかい」


 ポンポンと私の頭を叩いて去って行く将軍。

 きっと豪快に飲むに違いない。顔がニヤッとしてたし。


「それでリリシア様。お願いというのは?」

「あ、そうだった。えっと、非常に言い難いんだけど」


 当初の目的を思い出す。

 しかし後ろでもの凄い勢いで調理する人たちを見た後じゃ、言っていいものかどうか悩む。

 ホテルの厨房をさらに何倍も拡大したような巨大設備を、余すとこなくフル活用して調理に勤しんでいるのだ。

 どう考えても邪魔だろう。

 もうちょっと考えられなかったのか自分……。

 やっぱ帰ろうかと思ったら、キリノムくんが屈んで私の両手をそっと取った。


「リリシア様。何でも僕に言ってください」


 て、天然タラシ……!

 でも言い出しやすくなったよ。ありがとう。


「あの、兄さまにお昼を作って差し入れしたいんだけど、場所と食材を貸してもらえないかなって」

「…………。」

 無言!! 笑顔のまま固まってしまわれた。

 そこまで衝撃を与えるほど嫌な提案だったのか。ご、ごめん。


「やっぱりいいで」

「リリシア様と料理できる日が来るなんて……!」

「え?」


 いきなり天を仰ぐキリノムくん。握られたままの手がプルプルと震えている。


「ディートハルト様でなければ作る相手を殺しているところですが」

「え? (二回目)」

「貴様ら喜べ! リリシア様が一緒に昼食を作ってくださるぞ!!」


 キリノムくん!? 言葉遣いが荒れてるというかさっきの発言はなに!?

 いやいや料理人のみなさんも「うおおおおお!!」じゃなくて!


 広大な調理場が歓喜に打ち震えている。なんかもう勝利の雄叫びじゃん。


 やっぱりバトルスタジアムでしょ……ここ。


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