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77話 賢者と愚者と王都見学

「いやいやいや! 目立ち過ぎますよ!」

「大きさ的に一番適していると思うが」

「安全性が全く適してないです。テロ事件ですって!」

「従魔にしてあるから暴れはせぬぞ?」

「それはそうかもしれませんが……」


 魔物を従属させると、傍に置かなくても好きな時に呼び出すことができ、行動を縛ることも可能となる。

 完全に管理下にあると言っていい。

 でもSランクの魔物を街中に連れて行くのは、さすがにどうだろう……。さっきから周りにいる人がこぞって青い顔で避けてくし。


「リリは嫌か?」

「いえ全く。モフりたくて仕方ないです!」

 魔物に出会える機会が皆無な私は正直、大興奮だ。

 危険度とか関係ない。モフモフの前でそこは重要じゃないのだ。

 毛並みの素晴らしさこそ正義!

 このビロードのように艶のあるたてがみと、ユラユラ揺れる尻尾を撫で回したい……。


「ならば問題ないな。ルノア、私の愛娘だ。決して傷付けるでないぞ」

 父様が語りかけると、ルノアと名付けられたロストメルは静かに頭を垂れる。

 まるで頷いたみたいだ。

「言葉が分かるのですか?」

「喋れはせぬが知能は高いからな」

「へえー」


 確かに普通の動物もそういうとこあるよね。声のトーンとか強弱で褒められてるか怒られてるか判断したり、芸を覚えたり。

 ……でも今のは指示が抽象的すぎない? それでも分かるなんて凄すぎる。

「よろしくルノア」

 挨拶するとモシャッと前髪を食まれた。

 何ですか。「うるせぇ小娘! 話し掛けんな!」ってことですか……。

「リリ、今のは愛情表現だ。だからそんな顔をするな……」

 薄毛の人には戦慄もんだよ。


「ルノア、リリを背に乗せる。跪け」

 賢いルノアは一発でスッと足を折り姿勢を低くする。

 父様は私の両脇に手を入れ持ち上げると、優しくルノアの背中に降ろした。

 おおー! 鞍がなくても硬すぎない、しなやかな筋肉!

 毛並みも素晴らしすぎる! ツヤすべ!

 つかまるついでに撫でてみても嫌がられなかったので、存分に撫でまくる。

 ソラの毛並みはフワッって感じだけど、ルノアはするんとした手触りだ。

 どっちも好き!


「もうよい。くれぐれも落とすでないぞ」

 ゆっくりと立ち上がったルノアはもう一度頭を下げる。

 あれ? 乗るのは私一人ですか?

「父様は歩くのですか?」

「うむ。民と同じ目線で街の様子を見たいのだ。上から見下ろされれば威圧感も増すであろう?」


 父様……。ちゃんと国民のこと考えてるんだ。

 たまに残酷なことも言っちゃうけど、こういうところは王様として素敵だと思う。

「格好良いです、父様」

「……リリ。今のように至極愛らしい笑顔を外でしてはならん! 拐されるであろう!」

 途端に残念になった。



 ルノアにゆったり揺られて坂を下り、城下へ到着。

 目の前にはまさにRPGで見るような、中世っぽい街並みが広がっている。

 石畳の幅広い道、両サイドには様々な看板を下げた店、行き交う人々の格好もまさにゲームのそれだ。

 ただ、父様を見た瞬間にみんなが跪くのを除けば。


「よい。楽にせよ」

 どこぞの殿様のような父様の一言で、通常通りに動き出す人々。

 だけど視線はチラチラとこちらへ投げかけられていく。

 見られているのはルノアか私か。

 きっと両方だね。どっちも珍しいからね。落ち着かない……。


「どうしたリリ? 外へ出たがっていた割に、あまり楽しそうではないな」

 ルノアの隣を歩いている父様が、馬上の私を心配そうに見る。

「ちょっと好奇の視線が気になって……」

「ならば皆の目を潰すか」

 さっきの賢王ぶりはどこへ!?

 なぜ私が絡むといつも理性のブレーキがぶっ壊れるの……?


「やっぱり気にならなくなってきました。どこ行こうかな!」

 もう無理矢理テンションを上げる。

 こんな大勢の恨み買いたくないよ。

「そうだ。父様のオススメはどこですか?」

「うむ。まず仕立て屋でリリを更に可愛く着飾り宝石商で私と揃いのアクセサリーを買ってからリリの好きな甘味を食しにデザート専門店へ行き広場の噴水でゆっくり過ごした後に観劇しその後ディナーというのはどうだ?」

 怒涛のデートプラン!

 子どもの体力じゃ無理だよ。疲れて寝ちゃうよ。


「えーっと、洋服と宝石はもう充分すぎるほどあるので、デザート専門店へ行きたいです」

「そうか……」

 なぜしょんぼりするの父様。


「……高価じゃないピアスくらいならやっぱり見ます」

「本当か!? よし行こう」

 俄然、張り切る父様に連れられ高級宝石店へ。

 紫苑に輝くシンプルなピアスをお揃いで買った。

 大金貨三百枚とか嘘でしょ。

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