74話 可愛いは正義というより小悪魔
「父様、お話があります。少しだけお時間いいですか?」
その日の夕食を終え、執務室に戻ろうとする父様を廊下の途中で引き留める。
図書館の件を報告する為だ。
母様や兄様が一緒だと妙に鋭くて丸め込まれてしまうので、父様が一人になるこのタイミングを待っていた。
父様だってキレ者だけど『娘に嫌われたくない父親の心理』が甘さを出す。だからそこに付け込もうという作戦。
人命の前には正々堂々さなどゴミ箱に捨てるよ!
ソラにも先に部屋に戻ってもらっている。内緒にしたいから。
「どうしたのだ? 何でも父様に言ってみなさい」
抱き上げられるのに逆らわず、父様の腕に治まる。ここで機嫌を損ねてはいけない。言い出しにくくなる。
「その前に絶対怒らないって約束してくれますか?」
「なんだ穏やかでないな。内容如何によるが……」
「お願いします、父様」
世渡り上手だった前世の後輩を思い出しマネしてみる。
上目遣いでうるうるとチワワのようなイメージで。軽いボディタッチも忘れない。彼女は元気だろうか。
「……分かった。命に代えても約束しよう」
「ありがとうございます!」
後輩ちゃんもありがとう! きみのおかげで仕事量が散々増やされたことはチャラにするよ!
「実は私、昨日ちょっとした行き違いで人と衝突してしまいまして」
「揉めた? 相手は誰だ」
「外部の人です」
「場所は」
「と、図書館で」
「今すぐリドとセリを呼――」
「いえ二人は関係ありません! 私個人の問題です!」
食い気味に速攻で否定したら、父様の目が鋭くなる。
「リリシア。そんなに焦って否定するのは、やましいことがあるからであろう?」
「違います。本当に二人は関係ないんです。もしリドくんとセリちゃんに何かしたら、父様とは今後口を利かない所存です」
「それは困る……」
「では手出し無用ということで」
「…………分かった。本当に責は無いのならそうしよう」
「約束ですよ?」
言質は取った。作戦通りなのだが多少の罪悪感が湧く。ごめんよ、父様……。
「あと、その外部の人も無罪にしてください」
「拷問は無罪に入るか?」
「有罪二百パーセントですよ!!」
なにその「バナナはおやつに入りますか?」みたいなノリ!
「リリが人に難癖を付けるわけがない。大方そやつが悪いのであろう?」
「まあちょっと注意したらそうなったと言いますか……」
「何かされたのか」
「むしろこっちがしました。爪折っちゃいましたから」
「爪? ということは悪魔か。しかもリリシアに敵意を向けたな……?」
やばい。余計なヒントを出してしまった。
「ならば明日は悪魔狩りといこう。一段と忙しくなるな」
「そんなキノコ狩りに行くみたいな気軽な感じで決行しないで!? 駄目ですよ!」
「しかし」
「……相手は悪魔商会元締めの御子息です」
「ほう……?」
全悪魔を巻き込むわけにはいかないので暴露すれば、一瞬ザワリと父様からドス黒いオーラが立ち昇りかける。
まずい、廊下が腐ってしまう!
父様は闇属性と相性が良く、人なら即死・無機物は腐食するという、とんでも魔力持ちの破壊神なのだ。
「と、父様落ち着いてください! 今日、元締め自ら謝罪に来てくれましたし、お詫びの印に天狼を商品化しない誓文をくれましたから!」
「そのような物で済ませろと?」
「約束を反故にされたら堪りません。一生、父様を恨みます」
「それでは生涯苦しむではないか……」
秀麗な眉根をぐっと寄せ、苦悶の表情を浮かべる父様。自分でやっといてなんだけどチョロすぎるよ父様……。
「お願いします。どうかこの件は不問に」
「それほどあやつの種族が大事か」
「はい。とても」
これだけは譲れない。瞬きすら惜しんで目で訴え続けた。
「…………。次はないぞ」
「っ!! ありがとう父様! 大好きです!」
「そうだろう。もっと言ってくれ」
望むままに告白しまくった。言い過ぎて嘘くさく聞こえるくらい。でも本人が喜んでくれたし事実でもあるので無問題。
「そうだ。母様と兄様に気付かれたら、手出し無用と言っておいてくださいね」
「抜け目がないところはティエルに似たのか……?」
違うよ。父様にしか通用しないよ。




