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72話 元締め

 事態は翌日に動いた。

 お城の門番が庭で授業を受けていた私を呼びに来たのがきっかけだ。


「リリシア様。お忙しいところ申し訳ございません。面会を求める者が来ておりますが、いかが致しますか?」

「面会……ですか? 私に?」

「はい。エウトフ・ラーディと申す者にございます」

 誰それ。


「リリシアちゃんの知り合い?」

 ミスティス先生が小首を傾げて訊いてくるけれど、全く覚えがない。

「いえ、知らない人です。私に間違いないんですか?」

「悪魔商会の元締めだと申しておりますが」

「なっ……!?」

 大将が自らやって来ただって!?

 商会のトップの名前は、一般にはイニシャルでしか公開されていない。だからフルネームまでは知らなかった。

 まさか宣戦布告をしに来たのだろうか……? まずい、父様に見つかったら跡形もなく消される!


「会います。お城に入れるわけにはいかないので、案内してもらえますか?」

「はっ」

「ミスティス先生、すみません。ちょっと抜けさせてください」

「それはいいけど……。私もついて行きましょうか?」

 そういえば先生には事情を話したんだよね。


「いえ、できるだけ自分で解決したいので」

「……そう」

「でもピンチになったらお願いするかもしれません。先生は頼りになりますから」

「っ! この子ったら……!」

 ぎゅうぎゅうとミスティス先生に抱きしめられる。

 門番さんよ、そんなに羨ましそうな顔をしないで欲しい。

 生徒である私の特権なのだ!

「じゃあ案内お願いします」

 心配そうな顔をしたミスティス先生と別れ、お城の入口へと向かう。

 ――いざ対決。



 堅牢な門扉の前、その人は直立不動で待っていた。

 ダークグレーの撫でつけた髪、鋭い目付き、全身真っ黒の高級そうなスーツを身に纏い、手には黒い革の手袋。

 どう見てもカタギには見えないおじさまが、私を待ち構えている。


 ……フィクサーの間違いじゃないの?

 皆あからさまに避けて通ってるじゃん! やばいオーラ出し過ぎだよ!


「お、お待たせして申し訳ありません」

 萎れそうになる心を奮い立たせ、フィクサーに声を掛ける。

 すると眼光鋭いまなざしで私をギンッと睨んだ後、渋い声で自己紹介を始めた。


「お初にお目に掛かります。私はエウトフ・ラーディと申す者。お時間頂き感謝します」

 めっちゃ眼力あるこの人! 怖いよ!

 でも意外と礼儀正しいまともな人っぽい……。

「り、リリシアです。中へご案内できずご不快とは思いますが、お許しください」

「いえ、お会い頂けただけで重畳。門前払いされるかと」

「そう仰って頂けるなら救われます」

 なんだこの会話。幼児とフィクサーのビジネス会話って絵面もすごいな。


「……あの、それで御用件は」

「はい。本日はお詫びに参りました」

「お詫び?」

 忠告されたけど無視して天狼狩るぜスマンな! ってこと?

 それなら受けて立つ――!

「昨日は愚息が多大なご迷惑を掛けたようで、誠に申し訳ございませんでした」

「…………はい?」

 思わず間抜けな声が出た。うん? 何の話?


「この男に覚えはございませんか」

 フィクサーことラーディさんが、お城の壁に隠れるような位置にいた人物を引っ張り出す。

 現れたのは黒髪のイケメン。

 昨日の爪折り悪魔だ。


「ああ!」

「畏れ多くも魔王の御息女である貴方様に牙を剥き、治癒された挙げ句に無罪放免になった痴れ者です。覚えておいででしたか」

 忘れるわけないし息子!?

 ガラが悪そうな見た目はそっくりだけど!

 悪魔商会元締めの息子で身分がしっかりしてるから、お城に入れてたのか……。


「あの、誰がその話を?」

 黒髪イケメンは話しそうもないしなぁと思いチラリと見れば、バツが悪そうに顔を逸らされた。え、言ったの?

「こやつと共におりました二人から聞きました。お詫びのしようもございませんが、せめて足を運ぶのが礼儀と思い、恥を忍んで参上した次第です」

「……そうでしたか」

 どうした黒髪イケメン。すっかり大人しくなってるじゃないの。相当しぼられたのかな。


「我々がまだ生かされているということは、王には秘密にされているので?」

「言えるわけないじゃないですか! 跡形もなくなりますよ!?」

 どうやって言おうか悩んで一晩明けてしまったのだ。

 今日あたり報告しようと思ってたんだけど、まさか先方がいらっしゃるとは……。


「反逆とはそれほど重い罪かと」

「反逆ってそんな大げさな。挑発した私も悪いので」

 確かにカチンときたからね。

「なんと慈悲深い……。ですがそれでは私の腹が治まりません。何か償えることはございませんか」

 う、うーん。突然そう言われても……。

 …………ん?

 そうだ、こうしよう!


「では、一つお願いしてもいいですか?」

「一つと言わず何なりと」

 力強く頷いてくれたので、私は遠慮なく続きを口にする。

「ラーディさんは悪魔商会の一番偉い人ですよね?」

「はい。恥ずかしながら」

「疑うわけじゃありませんが、証拠とかありますか?」

「証拠……ですか。ではこれを」


 ラーディさんは空間魔法を使い、濁った赤色をした四角い印鑑を取り出す。

「親父!」

「黙れ。お前に口を挟む資格はない」

 おい、何ですか。黒髪イケメンが急に大声を出して焦っている。


「これは私が悪魔商会の元締めたる証の魔道具――『強欲の印章』と呼ばれるもの。簡単に言えば、商会が管理している全倉庫の鍵となります」

 ふむふむ。

「商品は元締めである私の空間魔法ではなく、いくつかの場所に分散して保管してあるのです」

 へえー、そうなんだ。諸々のリスクとか事情を考えた末なのかな。


「この使用権限をリリシア様に移しますので、どうぞお納めください」


 ……は?


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