68話 悪魔の戦闘形態
結局、キリノムくんはここ最近セレディさんには会っていないらしい。
悪魔商会を利用していないからではなく、仮の担当者が来るそうだ。
しばらく手が離せない、というのが理由だと仮担当者は語っていたそう。
恐らく天狼商品化計画に奮闘しているのだと思われる。
他の可能性もなくはないけど、タイミングと嫌な予感がそう直感させる。
しばらく、というのはどれくらい猶予があるんだろうか。
なにせ問題は山積みだ。
私の戦力不足。
天狼の居場所の特定の仕方。それもどうやって行くか。
悪魔商会が動き出すとしたらそのタイミングを探る方法。
……実にやばい。
何かヒントを得られないかと図書館へ向かう。
困った時は先人の知恵である。
計画段階でぽしゃってくれることを祈っているけれど、備えあれば憂いなし。
やれることはやっておこうと思う。
到着した図書館に足を踏み入れようとして、ギョッとしてしまった。
せ、セリちゃんがカウンターで美青年たちに囲まれている……!
「セリ殿、いつになったら私の愛に答えてくれるのだ?」
「いや僕でしょ!」
「ハッ、俺に決まってんだろ」
私は乙女ゲームを見ているのだろうか?
三者三様のイケメンが、美少女を取り囲んで奪い合いをしているのだ。
軍服ではなく私服なので、城勤めの人たちではなさそう。
ということは、図書館目的と見せかけたセリちゃん目当ての人たちかな。
「……誰にも応えるつもりないですから~」
セリちゃんは困り顔で三人をそでにする。
それでもイケメンたちは引き下がらない。さすがイケメン。自信が違う。
じゃなくて、リドくんは何をしてるのかな? 双子の妹が困ってるよ……?
扉から顔を出して探してみるも、見える範囲には姿がない。
う、うーん。仕方がない。
私は入り口近くの棚から適当に本を一冊取り、カウンターへ向かった。
「すみません。この本を借りたいのですが」
突然登場した幼女に、自然と四人の注目が集まる。
セリちゃんは途端に嬉しそうな顔になり、イケメンたちは困惑気味だ。
「……リリシア様~!」
「「「!? 魔王の娘!?」」」
「ど、どうも初めまして。リリシアと申します」
私の認知度どうなってんの。さすがに面割れはしていないようだけど。
「黄金の瞳か……」
「てか、ちっちゃ! 人形みたい!」
「フン。ガキは範囲外だ」
ん? 目の色がどうしたというんだろう。父様や兄様とお揃いだから、そんなに珍しいこともないはず。
あとの二人の発言はどうでもいいよ。
「セリちゃん。貸し出しをお願いします」
挨拶を返してくれなかった三人をまるっと無視し、セリちゃんに本を渡す。
もう帰ってください、と言外に含ませて。
「ふむ。この機会に繋がりをつけておくべきだな……」
「ねえねえ! おにーさんとちょっとお茶しない?」
「さっさと本を借りるなりそこのアホと消えるなりしろ。邪魔だ」
いやマジで帰ってくれ。特に最後の黒髪イケメン!
「すみませんが、ここは本を楽しむ場所です。恋の狩り場ではありません。女性を口説くなら他でして頂けませんか」
さすがの私もブチッときた。
しつこく残る三人に向かってキッパリと言い放つ。
悪いが私はセリちゃんの味方なのだ。
アウトオブ眼中の人たちにはさっさと退場願いたい。
女の子が猛アピールするなら可愛いものだけど、なんかこの人たちは駄目だ。
本気さがあまり感じられないからだろうか。
「はあ? ヤんのかクソガキ……」
一番荒っぽそうな黒髪イケメンもブチッときたのか、殺気を撒き散らし始める。
次第に側頭部から山羊みたいな巻き角がズズッと生え姿を現した。
変化は角だけに治まらず、犬歯と爪も伸び白眼の部分も黒く染まる。
その禍々しさは、まさに悪魔。
戦闘モードの悪魔を初めて見た。
「なにそれ格好良い……!」
怒りを忘れて魔族の神秘に大興奮する。
それがいけなかったのだろう。
黒髪イケメンの悪魔は、躊躇いもなく鋭い爪を私に振り下ろした。




