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05話 将軍

 兄さまの部屋を出て、深紅のカーペット張りの広く長い廊下を進む。

 今私がいるのはお城の中でも居住塔と呼ばれる私的エリアの建物なので、入れる人は限られているから安心安全。鼻歌まじりに歩いてたって何ら危険はない。

 時々すれ違うメイドさんに会釈されつつ微笑まれるくらいだ。


 目的地である調理場は、執務塔と言うお城の真ん中に位置する建物の一階にある。

 ここから階段を三階分下り、渡り廊下を進めば到着。

 執務塔はその名の通り文官や軍人の詰め所などがあり、城勤めの人たちの職場となっているのだ。

 この塔に私が足を運ぶことはあまりないので、ちょっとした探検気分で歩を進める。幼児の足では距離が長すぎて探検気分でもないとめげる。


「可愛い子を捕獲」


「うぎゃあ!!」

 二階部分の踊り場で急激に視線が高くなり、思わず色気のない悲鳴を上げてしまった。

 振り返れば美丈夫と目が合う。


「ば、バルレイ将軍!」

「よぉ。一人で何してんだ?」


 私の両脇に手を入れぶらーんと持ち上げているこの人は、父さまの部下であり軍事部門の最高責任者。

 バルレイ・サイファード。

 階級は将軍。

 城勤めの軍人は元の世界の軍と同じような階級付けがされているのだが、トップは元帥ではなく将軍。だから微妙に違うオリジナルのものなんだと思う。多分。


 バルレイ将軍の種族は鬼人。

 鬼人は魔法よりも物理攻撃に特化した種族で、自身も鋼のように硬い。

 触った感じは普通だけど切りつけようもんなら剣とか普通に折れる。大地も素手で割る。ゴリゴリの武人タイプだ。

 戦闘モードになると頭部に角が生えるらしい。見たい。


「えーっと、調理場を目指して探検中です」

「ほおー、探検ごっこか。怪しいヤツはいたか?」

 さり気なく私を腕だっこに抱え直すバルレイ将軍。貴方もこの体勢ですか!

 大きく寛げられた軍服の胸元が目に毒だ。けしからん。もっとやれ。


「可愛いメイドさんしかいませんでした」

「まあ居住塔だからな」

「顔で採用してるのか後で父さまを尋問しようと思います」

「ぶはっ! 魔王を尋問か! そりゃあいい」

 赤褐色の髪と顎ひげがワイルドなおじさまが無邪気に笑う。なにそれ萌える。


「けどそれはねぇから止めといてやれ。採用してんのは王妃と文官だ」

「え、そうだったんですか」

 なんと人事担当は母さまだったらしい。それなら無罪だ。すまぬ父さま。

 となると、やっぱりこの世界って美形がデフォルトなのかもしれない。

 わざわざ浮気相手になりそうな美人を揃えたりはしないよね普通。


「ところで将軍はなぜここに?」

「王の執務室から出て来たとこだ」

「ああ、すぐ上ですもんね」


 父さまの仕事場である魔王執務室だけは例外で、執務塔ではなく居住塔の三階にある。

 私たち家族の私室がある階層のすぐ下なのだ。

 さしずめ将軍は私が階段を下りているところを見つけ、捕獲したんだろう。

 自分で言っといて捕獲される意味は分からない。


「って、呑気に考察してる場合じゃなかった! バルレイ将軍、降ろしてください」

「なんだ?」

「調理場へ急ぎたいので」

 早く行って場所と食材を借りるお願いをしなければ、昼食に間に合わなくなる!


「よし、ならオレが連れて行ってやろう」

 ニヤッと色っぽく笑い、私を抱えたまま大股で歩き出すバルレイ将軍。

 おぉ! すごい速いし人が道を開けてくれる! 気を付けて轢かれるよ!


「ありがとうございます。でもお時間はよいのですか?」

「ああ。というか、オレも調理場へ行くところだったからな」

「え、盗み食いですか?」

「お前はオレを何だと思ってんだ……」

「筋肉が素敵なワイルド系美中年だと思ってますが」

「ほぉ?」

 ほらその獲物を捕らえた猛獣みたいな顔とか。銀の瞳が鋭くて格好良い。

 後ろに流した髪もたてがみっぽくてライオンみたいだ。


「王に次会ったら自慢してやろう。リリシアに口説かれたってな」

「いつの間にそんな会話が!?」

「無自覚かよ。ひでぇなー。浮かれて損した」

 わざとらしく溜め息を吐いて首を振るバルレイ将軍。

 なんだよ、めっちゃ良い匂いさせて口説いてんのそっちじゃないか! 奥さんに言い付けるぞ!


「それで結局、将軍は調理場へは何しに行かれるんですか?」

「王から良い酒が手に入ったって聞いてな。数本貰いに行くとこだ」

「お酒、ですか」

「なんでも隣国の希少な果実からできてるとか何とか」

「……それ兄さまへの警護依頼の報酬の一部ですねきっと」

 契約内容を見たわけじゃないけどタイミング的に間違いない。

 対価はお金がメインで、副賞的な感じで特産品やら名品が含まれたりするっぽい。


「へー。坊も良い仕事するじゃねーか」

「代わりに兄さまの機嫌が大変なことになりましたけど……」

「ああ?」

「火竜の巣を潰したって。多分、兄さまの部屋も今頃無事じゃないはずです」

「さっきの爆発音か。まだまだガキだなぁ」


 まあ三千歳越えの将軍に比べたら百歳の兄さまとか子どもだろう。

 じゃあ一桁の私は何だ。生まれる前の卵か。

 なるほどだからこんな壊れ物に触るような扱いを。早足なのにさっきから全く振動が来ないんだよ。紳士め。

「ちなみに将軍はどうやって気持ちを落ち着けてるんですか?」


「片っ端から目障りな魔物を殺す」


「兄さまよりもっとガキだったこの人!」

「男はいくつになっても少年心を忘れないもんだぜ」

「少年心っていうか心のブレーキ忘れてますよ! 殺戮はどうかと思います……」


 いくら魔物とはいえ不必要に殺すのはいただけない。


「個体数が増えすぎて害になりそうなヤツしか殺さねーよ。……多分」

「多分!?」

「お、着いたぞ」

「誤魔化された!」


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