59話 襟足の長い人は大体そう
「おう。来たな」
翌日。
ソラを伴って鍛錬場最上階、バルレイ将軍の元を訪れた。
相変わらず素晴らしい筋肉をお持ちの美丈夫である。
「こんにちは、バルレイ将軍」
「ガウ」
ソラは人型ではなく天狼の姿のまま。
人でいられる時間がまだ短い為、本来の姿で鍛錬を開始するのだ。
「王妃殿から話は聞いてる。みっちり絞ってやるから覚悟しろよ」
「お、お手柔らかにお願いします」
教官モードの将軍は心身ともに鬼だ。心配で堪らない。
私はミスティス先生の授業を受けるので、ソラとは別行動。
だからどんなことをするのか、この目で見られないのだ。
「そんな顔すんなって。死なせたりしねぇよ」
バルレイ将軍は苦笑して私の頭をくしゃりと撫でる。
五年前の出来事は、将軍にとっても苦い思い出らしい。もちろん私にも。
「つっても鍛えんのはオレじゃないんだが」
「え、違うんですか?」
「オレはアイツらを鍛えなきゃなんねーからな」
チラリと後ろに整列する軍人たちを見るバルレイ将軍。
魔王直属軍の皆さんだ。
将軍の脇からひょっこり顔を出すと、一糸乱れぬ動きで全員が臣下の礼をとった。
き、急に跪くからビックリした……!
「あの、すみません。お邪魔してます」
総勢五十名ほどの軍人に向かってペコリと頭を下げる。
しかし誰一人として反応してくれない。一ミリたりとも動かない。
なぜだ。面を上げよ待ちですか。
「将軍……」
「お前ら楽にしとけ」
「「「はっ!!」」」
バルレイ将軍の一声でザッと立ち上がり、直立不動になる皆様。統率が半端ない。
「なんか凄いですね……」
「たりめぇだろ。誰が鍛えてると思ってんだ」
「筋肉が素晴らしい美丈夫な鬼将軍です」
「……やめろ顔がニヤけんだろうが」
ヒョイッと私を抱き上げて照れる将軍が可愛くてこっちがニヤけるよ!
一方、軍人の皆さんは目玉を落とさんばかりにビックリしている。
これ私には通常運転ですよ。
ダシダシと将軍の足を踏み抗議するソラもいつも通りだ。
「それでバルレイ将軍、ソラを鍛えてくれるのはどなたですか?」
「ああ、そうだったな。おい、こっち来い」
将軍の呼び掛けに列の最後尾から姿を現す一人の青年。
着崩した軍服、耳には複数のピアス、胸元や腕には複数のシルバーアクセが輝いている。
赤褐色の髪は首の後ろだけが背中の半分くらいまで長く、鋭い銀の瞳は獲物を狙うハンターのようだ。
や、ヤンキーだ! 紛れもなくヤンチャだぞ、この人!
二十代前半に見えるその青年は、どう見ても真面目そうには見えない。
こんな人、今までいたっけ?
……いや、いなかったはず。
だって一度見たら絶対忘れない容姿だ。インパクトありすぎる。
思わずジッと見てしまえば、目が合い睨み返される。
うーん。さっきから思ってたけど、どことなく将軍に似ていると感じるのは気のせいだろうか。
「おら、挨拶しろ」
バルレイ将軍がヤンキーに向かって顎先で促すと、決して愛想が良いとは言えない態度で自己紹介をしてくれる。
「どーも。オレはユイルド・サイファード。そこの将軍の息子だ」




