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04話 執事

「ディートハルト様。少しよろしいでしょうか」

 引き続き兄さまの部屋で過ごしていたら控え目に扉がノックされた。


 この声は家令兼執事のメルローだ。

 広大な城の雑務一切を取り仕切っている、デキるおじさまである。

 悪魔で執事ではなく、魔人で執事。


「駄目だ。邪魔をするな」

「に、兄さま?」

「七日ぶりにリリに会えたのだ。後にしろ」


 用件も聞かずバッサリと一刀両断。いや嬉しいけどダメでしょう!

 メルローも渋良い声で「しかし……」と困っている。うむ、これは助けねば。


「兄さま、私メルローに用事があるのを思い出しました」

「……へぇ。どんな?」

「ぅえ!? えーっと、兄さまには内緒で」

「リリ。嘘はよくないぞ」

 まさかの即バレ……! でも諦めない。

「内緒でお昼を作って差し入れる相談をしたかったのですが、残念です」

「なっ……!」


 魔族でも普通に食事をする。

 食材は主に魔物や魔草――魔力を含んだ野菜みたいなものだ。

 人間と同じ食べ物も好んで食べるので、結構雑食。


 私の嘘話にガーンとショックを受けている兄さまの腕の力が緩んだ隙に、膝の上から逃走し扉へと向かう。

 部屋が広すぎて幼児の足では中々辿り着かないという贅沢な悩み……!

「メ、メルロー。お待たせ……」

 若干息切れしながら扉を開ければ、私が開けるのが予想外だったのか、少し驚いた顔をした燕尾服のおじさまがいた。


 灰色の髪を緩やかにサイドへ流し、紫の瞳をした優男だ。

 四十代っぽい見た目だけど実年齢はゼロ二つ桁が多いと聞いている。

 メルローは目が合った途端スッと膝を折り、視線を低くしてくれた。

 ごく自然にしてくれるのが素敵……!


「これはリリシア様。ありがとうございます」

「ううん。兄さまに用事でしょ?」

「はい。左様にございます」

「兄さま、メルローに入ってもらっていいですか?」

 振り返れば不機嫌MAXな顔でソファーに足を組む美形が。

 お、怒っていらっしゃる……?


「入れ。リリはこっち」

 前半はメルローに、後半は私に視線を合わせ、膝上をポンポンと叩く。

 私にだけ睨まないとか器用ですね兄さま。

「えーっと、話のお邪魔になるので私は失礼しますね」


 口実を作る為とはいえ、騙してしまったお詫びに嘘を実行しようじゃないか。

 三歳じゃ大したものは作れないけど、そこは勘弁してもらおう。

 こういうのは気持ちが大事ってことで一つ!


「……メルロー。殺していいか?」

「御冗談を。わたくしの髪の毛一本とて旦那様のもの。勝手に失うわけには参りません」


 抜け毛どうすんの!? と思わず心の中でツッコんだ私はアホだろう。

 ものの例えってことくらいすぐ気付こうよ。単純か。

 いかん。そんなこと言ってる場合じゃなかった。冷戦状態みたいな空気になっている。


「二人とも仲良くしてね?」

 バチバチ火花を散らしそうな視線をブッた切ってお願いする。


 別に二人の仲は普段悪くはないけれど、今日の兄さまは任務帰りで機嫌がよろしくない。相当ストレスだったのか、沸点がめちゃくちゃ下がっている。

 この城まで壊されたら堪らないよ。

 まあそんなことしないだろうけど念の為に釘を刺しておく。

 フリじゃないよ? 本気のお願いだよ?


「分かった」

「リリシア様の仰せのままに」

 二人は視線を互いから私に移すとコクリと頷いて了承してくれる。


 うむ。では私は調理場へ向かうとしようじゃないか!


 兄さまとメルローに挨拶をして部屋を出る。

 メルローにより扉が閉められた途端、ドンッと大きな爆発音がしたのは気のせいだと思いたい。


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