55話 魔人の魔力
「リリシアちゃんは氷属性と相性がいいみたいね」
「魔力干渉の結果ですか」
つまりはこう。
まず魔人は戦闘モードになると、体内にある魔力がオーラとなって可視化する。
さらに魔力の質が良いと具現化され、一番相性が良い属性となって世界に干渉するという特性を持っている。
寒期でもないのに白銀の世界に変わったということは、魔力の質が良く氷属性と相性が良い、という証明になるのだ。
「大正解よ。ディートくんは火属性だから焼け焦げたりするわ。見たことない?」
「あります……」
忘れもしないサンドイッチ事件。
ランチをしようと庭に出た先でちょっとした問題(?)があり、殺気を漲らせてオーラを放出した兄様の周辺が、焼け野原というか地獄の一丁目みたいになったことがある。
結局、修復はされたけど地面がちょっと変色したままなんだよね……。
「ミスティス。その呼び名はやめろ」
犯人である兄様が秀麗な眉を寄せ、不満そうな声を上げた。
「あら、いいじゃない可愛くて」
「心底不快だ」
「やだ怖いお顔。昔はあんなに可愛かったのにねぇ」
「先生その話、詳しく!」
そういえば兄様の家庭教師もミスティス先生だったのだ。
小さい頃の兄様はどんなだったのか知りたい!
「うふふ。そりゃもう美少女かと思わんばかりの可憐さで、私の言うことを真剣に聞いてくれたものよぉ?」
なぜこの世界にはデジカメがないのですか。おかげで国宝を見逃した……。
「今すぐ忘れろ……!」
「嫌よ。私の宝物だもの。でも魔力に関しては可愛くなかったわね。ここ砂地でしょう? こうなったのディートくんの魔力が干渉した結果だからね」
「えっ」
「リリシアちゃんと同じテストしたのよ。魔力量を知る為にね。そうしたら一面焦土! 地下深くまで完全に焼けちゃって、何も育たない不毛の地になっちゃったわ。元は草原だったのに」
……兄様の魔力えげつない。
「でも兄妹で同じことするのね。今度は永久凍土かしら……」
「いやいやいや! 溶けますよ、その内」
「自然に任せたらどれだけ掛かるか分からないわよ。なにせ魔王の子が本気で出した魔力の干渉結果だもの。質が普通の魔人とは違うわ。私も魔法耐性を上げる装束じゃなきゃ、氷の彫刻まっしぐらだったんだから。ソラちゃんも種族的に氷耐性があるからよかったわね」
マジですか。
なんてこった。ソラのお気に入りスポットが氷山地帯に……。
「ごめんねソラ……。これじゃ走れないよね」
スケートリンクみたいにツルツルならまだしも、なんかトゲトゲしい氷なのだ。
刺さるよこれ。
キュートな肉球に傷が付いてしまう。
「ガウガウ」
「いや気にする。めっちゃ気にする……」
「ほら、お兄ちゃん出番よ! なんとかしてあげなさいな」
「責任取って貴様がやれ。ミスティス」
「私が火属性と相性悪いの知ってるでしょう!? 意地悪!」
「リリを傷付けた罰だ。根性でなんとかしろ。できなくば死ね」
「ディートくんのドS!」
ミスティス先生が半泣きで兄様に抗議する。
顎の所できゅっと握った両手を揃えながら。
そんな乙女みたいな仕草じゃ可愛いさしかないよ、先生。




