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53話 授業開始

軽い残酷表現を含みます。ご注意ください。

「まずリリシアちゃんが本気の時の魔力量が知りたいわね」

 ドッグランもどきに場所を移すと、ミスティス先生は開口一番そう言った。


「魔力量ですか」

「ええ。魔力探知はおおよその値しか分からないのよ。戦闘態勢になると跳ね上がったりするから、あくまで目安という感じね」

「なるほど」

 スカウ●ーもそんな感じだったような気がする。


「どうすればいいですか?」

「そうね。私を殺したいほど心の底から憎い相手だと思って、殺気を漲らせてもらえるかしら」

 なにそれ。いきなり難しすぎる。

「ちょっと心の準備をしてもいいですか……? ミスティス先生のことは大好きなので、突然そう言われても難しいです」

「リリシアちゃんっ!」

 間髪入れず先生にムギュッと抱きしめられた。案外筋肉質だよ。


「ガウッ!」

「あら、ごめんなさいね。嬉しさが勢い余っちゃって」

「いえ。でもちょっと困難度が上がりました……」

 ハグしてきた相手を次は憎めと言われても。自分、不器用なんで。


「うーん、困っちゃったわね。じゃあこれを飲んでみてくれる?」

 ミスティス先生が装束の袂から取り出したのは、一つの小瓶。

 ダイヤ型の蓋がされたそのガラス瓶には、薄桃色の液体が入っている。

「何ですかそれ?」

「先生特製のドリンクよ。興奮剤みたいなものだと思ってグッと飲んで?」

「へぇー。分かりました」

 小瓶を受け取り一気に飲み干す。

「あれ、甘い……」

 見た目を裏切らずフルーツっぽい甘さのある不思議な味だ。美味しい。


「ちょっと辛くなるかもしれないわ」

「そうなんですか?」

 特に変化はないと言おうとして、心臓がドクンッと大きく跳ねたのを感じた。

 一瞬、視界がグラつく。


「……先に言っておくわ。ごめんなさいね」

 揺れる視界でミスティス先生が謝っているのが聞こえる。

 数秒経ってようやく元に戻った時、目の前に立つ先生の瞳は見たことがないほどの冷酷さを帯びていた。


「っ……!?」

 静かな殺気に全身がゾワッと粟立つ。

 普段の先生とはまるで別人だ。極限まで研ぎ澄まされた凶気をビリビリと感じる。

 一体、どうしたというんだろう。


「せ、先生……?」

「何をグズグズしている。早く本気を出してみろ」

「え?」

「私を殺す気になれ、と言っている。できないならそこの狼、殺すぞ……?」

「!!」


 オネェ口調じゃなくなったミスティス先生は、本気でやりかねない空気を帯びてソラを見遣る。

 エルフは戦闘モードになっても外見的変化はない。

 でもあきらかにそういう意識下にあることは分かる。


 突然の変わり身に頭が追い付かず、私はただ混乱するばかり。

 その場に立ち尽くすしかできなくて、金縛りに遭ったみたいに動けない。

「時間切れだ。己の愚鈍さを恨むがいい」

 フッと姿を消したミスティス先生はいつの間にかソラの正面に立ち、迷わず首に手を掛ける。


「駄目……!」

 一瞬、爆発的に込み上げる怒り。

 でも先生がそんなことをするわけがないという理性が、怒りをすぐに萎えさせる。

 そんな私を先生は冷たい目で見下ろすと、躊躇いもなく手に力を込めた。

「口だけか。仕方ない」


 ゴキュッ!!

 無慈悲な音を立てて折れるソラの首。


「――――――ッ!!」

「案外もろいな」

 風魔法を発動しブチブチと嫌な音を立てそのまま引き千切ると、ゴミでも捨てるような要領で身体から離れた首を放り投げる。

 手から離れたそれは放物線を描き、ゴロゴロと地面を転がっていった。


 え…………。

 嘘だよ。

 そんなことするわけない。

 だってミスティス先生だよ? 花とお菓子が好きなお茶目な人だよ?

 五歳の時から勉強を教えてもらって、先生は私がどれだけソラを大事に思っているか分かってくれている。

 その人が目の前でこんなことする?


 ……でも待って。


 じゃあそこに転がっているものは何――?


「あ……ああああああああああああああああああああ!!」

 目の前の光景が赤く染まる。

 頭が、心が、この世の全てを拒絶する。


 私の理性はそこで焼き切れてしまった。


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