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52話 誰が為

 エルフとは。

 本来ならば魔王の領地には足を踏み入れない、人間寄りの種族である。

 和平協定前の争いでも、唯一人間の味方をした人外。

 争いを好まず、自然を愛し精霊と共に生きる穏やかな種族。というのがこの世界におけるエルフの解釈。


 先生は特例中の特例だ。


「お出迎えなんてどうしたの? 珍しいわねぇ」

 私とソラのところにやって来ると、先生はニコニコと私の頭を撫でる。

 ソラも慣れたもので呻ったりはしない。

 ただ、監視するようにジッと見てはいるけども……。


「先生にお願いがあって待ってました」

「あら、真剣なお顔。何か事情がありそうね」

「はい」

「ここじゃなんだから移動しましょうか」

 先生も加わると注目度が半端ないのだ。

 魔王の娘、天狼、エルフという異端しかいないパーティーだから、自然とそうなってしまう。


「おい、見ろよ。エルフがいるぞ」

「うわっ。本物初めて見た」

 まあこんな感じですよ。

 城勤めじゃない風貌の二人組が、先生を無遠慮にジロジロ見る。先生に惚れても知らんぞこの野郎!


「ごめんなさい。先生」

「んー? リリシアちゃんが謝ることないじゃない?」

「……それは、そうですが。私に勉強を教える為に来てくれているので」

「良い子ねぇ。でも先生は名前で呼んでくれない方が悲しいわ~」

 そう言ってワザとらしく泣き真似をしてみせるところが、お茶目で可愛い。

 女性的な見た目ではないけど、言動が可愛らしいのだ。


 バルレイ将軍とほぼ同い年とは思えない。

 け、決して将軍が老けてるって言いたいんじゃないよ!? 魅力が違うというだけの話で……! 誰に言い訳をしているんだ私は。


「ミスティス先生、今日は外でもいいですか?」

 名前も付け加えて尋ねれば、先生は嬉しそうに破顔する。

「ええ、いいわよ。リリシアちゃんの好きな所に連れて行ってちょうだい?」

「じゃあ森林エリアに。ソラもそこでいい?」

「ガウ」

「ふふっ。ちゃんとソラちゃんに訊くところが私は好きよ」

 そんな小さなことにも気付いて褒めてくれる先生が、私も好きです。



「――さて。お願いって何かしら?」

 木漏れ日が降り注ぐ少し拓けた場所に腰を下ろしたミスティス先生は、穏やかな顔で私に問い掛ける。

 ソラは私の真後ろで伏せ、もふもふソファーと化した。

 凭れろ、ということらしい。

 真面目な話をするのに顔がニヤけるじゃないか……!

 一通りモフみを堪能した。抗えるわけない。


「……ごほん。ミスティス先生、今日から座学だけじゃなく魔法も教えてください」

「あら」

「両親の許可は取ってあります。嘘じゃありません」

 ポケットに仕舞っておいた父様からの手紙を差し出す。

 ミスティス先生はそれを受け取ると、真面目な顔で黙読を始めた。


 座学と魔法実技、先生は両方教えられる家庭教師だ。どちらもこなせる人材は魔族でもそういないと母様に聞いた。

 どこで知り合ったのかは詳しく知らない。

 ただ父様に恩がある、ということだけしか教えてくれなかった。

 先生自身もあまり自分のことは話したがらないので、訊くに訊けなくて謎のままなのだ。


「なるほど。大体の事情はここに書いてあったわ。大事なものを守る為の力が欲しいのね」

「はい。できれば使わないことを望みますが」

「そう……。理想だけじゃ何も守れないものね。悲しいことだけれど」

 眉尻を下げ、辛そうな顔でミスティス先生は独り言のように呟く。


「先生……?」

「ごめんなさい。何でもないわ」

 ふふっと笑うミスティス先生は、どう見たって誤魔化した感満載だ。

 ……だけどあんな顔を見せられた後じゃ、これ以上追及することができないよ。

 いつか私にも何か話してくれるかな。


「さ! そうとなったら始めるわよ!」

「! いいんですか?」

「もちろん。先生は愛に生きる者の味方よ」


 さすがエルフ。

 そんなセリフも似合っちゃうとかズルい。


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