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49話 原動力はいつだってキミ

 セレディさんが帰った後、ふわふわタオルなどが常備されている洗面室のクローゼットを整理し、ソラの服一式を仕舞った。

 人型をとる時はいつも私に見られないようそこでするので、部屋に設置されているものよりそっちの方がいいと思ったからだ。


「よし、これでいつでもオッケーだよ。好きに着てね」

「ガウ!」

 尻尾をブンブンと振り身体をすり寄せてくるソラ。喜んでくれているみたいでよかった。

 ひとしきり撫で回すと、ソラがグイグイと私を洗面室から追い出しに掛かる。


「ソラ? 人型になるの?」

「ガウ!」

「そっか。無理はしないでね」

 扉が閉まる前にそれだけ伝えれば、元気の良い返事が返ってきた。

 なんか鶴の恩返しみたいだ。決して覗くまい。


 そんなアホなことを思いながらベッドにボスンと倒れ込む。

 今の私の頭の中は天狼のことでいっぱいだ。

 セレディさんはキリノムくんのことは約束してくれたけど、天狼については「肝に銘じる」と言っただけ。

 狩らない、とは言わなかった。


 ……こんなことならソラを隠しておけばよかった。

 まさか自分がソラの種族を危険に晒すきっかけを作るかもしれないなんて、思いもしなかったのだ。

 どうしよう。


「――リリ?」


 しばらく枕に顔を埋めていると頭上から降ってくるソラの声。

 身体を起こせば買ったばかりの服を着ているソラがいた。

 シャツはボタンが難しかったのか、白いカットソーに黒のベスト、深い青色の七分丈ズボンというラフな出で立ち。

 でも着ている本人の素材が良すぎてシンプル格好良い。


 けど、やっちゃったな私。

 靴買ってないし尻尾の抜け穴も作ってない……。

 足元は裸足で、背中側のウエスト部分から尻尾がはみ出している。


「ごめんソラ! すぐ靴買う! あとメイドさんにズボン仕立て直してもらうから! 尻尾がちゃんと出るように!」

「いいよ。どう、似合う?」

「めちゃくちゃ似合う!」

「そっか。リリが選んでくれて凄く嬉しい。ありがと」

 ベッドに膝立ち状態でテンパる私を落ち着かせるように、ハグしてくるソラ。

 そのまま耳元でそっと囁いてくる。

「ちゃんとお返しするから待ってて」

「う、うん」

 そんな甘い声で言わないで欲しい。心臓が破裂する……!


 もう一度ギュッとして私を解放したソラが、今度は心配そうに耳と眉尻を下げた。

「……リリ。なんか元気ない」

「え? そんなことないよ?」

「オレが出て来るまでベッドに伏せてたし」

「たまたまだよ。だから心配しないで」

「リリ」

 笑って誤魔化す私をソラは真剣な顔で見る。……ダメか。お見通しだ。


「…………実はセレディさんのことが気になってる」

「さっきの悪魔か?」

「そう。その……天狼を商品化する為に、狩りに行くんじゃないかと」

「それ、さっきも心配してたな」

「うん……。私のせいかもって思うと落ち着かなくて」


 段々と俯きがちになる私の頭に、ソラは優しくポンと手を置く。

「もし仮にそうなっても、リリが気に病むことじゃない」

「でも」

「魔物の世界は弱肉強食。自分より強い奴に狩られることなんて日常茶飯事だ」

「それは、そうかもしれないけど……」


 私だって魔物の肉を食べている。

 ただソラと同じ種族だから気にしているだけ。自己満足の偽善。

 分かってる。

 でもどうしても割り切ることはできないのだ。


「リリ。天狼は魔物の中でも弱くはない。……群れでいるなら尚更。だから心配するな」

「……ソラ」

 何やってるんだ私。

 ソラの口からそんなこと言わせて、こんな悲しい顔させるなんて。


「…………よし決めた」

 今のソラの顔を見て目が覚めた。

 私にとって守るべきは、世の価値観じゃない。

 もっと大事なものが目の前にあるじゃないか。


「リリ?」

「もう大丈夫。私はやりたいようにやるよ」

 偽善上等。

 ソラの為なら、そんなものクソ食らえだ。

 今は辛い思い出が強いかもしれないけど、それでも帰れる場所だけはあるべき形のまま残っていて欲しい。

 天狼は何百年と生きる長命種。

 なら今後和解できる機会や可能性だって、きっとゼロじゃないと、そう願ってしまうから。

 その芽を摘ませたくない。


 ウジウジ悩んで時間を無駄にする前に、私は自分に出来る事を目一杯やる。

 そう決めた。


「リリ。まさか本当にあの悪魔の邪魔をする気なのか……?」

「しないで済むことを願うけどね」

「ダメだ! 危ないことはしないでくれ!」

「……ごめんソラ。これだけは譲れないよ。企画段階で潰れてくれれば一番いいけど、もしそうじゃなかった時、何もしなかったら私は一生後悔する。笑ってソラの隣に居られないよ」


 だから準備だけはしておくつもりだ。

 例え空振りに終わったとしても、どの道私は自分を鍛えなきゃならないことになっている。

 その緊急性が高まっただけ。


 マイペースに生きているから忘れがちだけど、私は魔王の娘なのだ。

 無力な少女でいることは許されない。


「リリ……」

 私の決意が固いと思ったのか、ソラはそれ以上何も言わず、狼の姿に戻るまで無言で隣に座り続けた。


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