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48話 セールスレディに要注意

「はい。天狼のソラです」

「あまりに懐いているので別物かと……」

「こういう毛色の魔物が他にもいるんですか?」

「いえ。染めていらっしゃるのかと思いまして」

 驚愕の表情でソラを見つめるセレディさん。

 対するソラはガン無視を決め込んでいる。


「やっぱり珍しいんでしょうか」

「珍しいなんてものじゃないですよ! 近くで見られて大興奮です!」

 もしやモフモフ好きですか!?

「ぜひ商品にしたい……」

 違った。ただの仕事大好き人間だった。


「ソラは譲りませんから!」

 私からは絶対に離さないと決めている。

 ソラを抱きしめて拒否れば、ペロリと頬を舐められた。


「ふはっ。くすぐったいよ」

 人の姿じゃないなら単純に嬉しい。うん、今朝のは無性に恥ずかしかった。

「こんなに懐くなんて……。これは社に帰ったら検討を――」

 セレディさんは仕事スイッチが加速してしまったらしく、何かよからぬ計画をブツブツと呟いてトリップしている。


「……やばい。どうしようソラ」

「ガウガウ」

 心配するなとでも言いたげに、フルフルと首を横に振るソラ。

「ソラの仲間が狩られちゃいそうな雰囲気だよ……?」

「ガウガウ」

 ソラはもう一度同じ動作をする。

 でもどうにも心配だ。

 人型になった時に色々訊いちゃダメだろうか。

 ……ダメだよね。居場所がなかったって言ってたから、きっと傷付ける。


「とりあえず今は服を決めようか」

「ガウ」

 今すぐどうこうなる問題ではないと思い、本来の目的を優先する。

 パラリと冊子を捲れば生地、色柄、袖の長さ、裾の長さ、ズボンの丈、ボタンの有無など詳細に選べることが目次から見て取れた。

 こ、これは時間が掛かりそう。


「ソラはどういうのが好きなの?」

 セレディさんに聞こえないようそっと耳打ちで希望を訊く。

 守秘義務があるとは言っていたけど、ソラの服を選んでいるということを知られない方がいい気がしたからだ。

 なんか今のセレディさんはちょっと怖い。

 仕事に対する熱意が狂気染みている気がする。

 前に会った時はこんな感じじゃなかったと思うんだけどな……。

 ソラは私の質問になぜか一瞬ビクンッとした後、首を横に振った。


「希望ないの? 遠慮してる?」

 再度訊いてみれば、鼻先を口にちょんと押し付けられる。

 何それどういう意味? 耳元で喋るなってこと? 萌え死ねってこと?


「うーん、困った……。セレディさん、人気のデザインとか教えてもらえませんか?」

「うちの社の人間で天狼に太刀打ちできるものは……」

「セレディさん!」

「はっ! すみません、何でしょう」

「人気があるものを見せてもらいたいのですが」

 いよいよ天狼商品化計画に乗り出しそうなセレディさんを引き戻す。

 ……駄目だ。これは後で釘を刺さなくちゃならない。


「畏まりました。何着かお出ししますね」

「お願いします」


 例の異次元アタッシュケースから何度か出し入れしてもらい、上下セットと下着を七着ずつ買った。

 財源は私のお小遣いを貯めたもの。

 五歳からお金の勉強の延長線上で貰えるようになったのだ。

 なんと一ヶ月に大金貨十枚。日本円で十万円なり。お給料じゃん。

 外に出られないから使い道がほぼない為、ちょっとした小金持ちである。

 だからこれだけ買っても、まだまだ余裕。

 大金貨三十枚でも一括払いさ!


「では今日はこの辺りで失礼致します。リリシア様、ありがとうございました」

「こちらこそお越し頂いてすみません。それに私は悪魔じゃないのに」

 悪魔商会は悪魔の為の商社。

 それ以外の種族は基本的にサービス対象外なのだ。


「キリノム様の御紹介ということで何も問題ありませんよ」

 ニコリと微笑むセレディさん。

 とっても良い人だ。

 ――良い人だけど、これだけは言っておかなくちゃ。


「セレディさん」

「はい?」

「天狼を商品として狩る気ですか」

「……それは」

「もしするなら、私は邪魔をするかもしれません」


 自分は勝手に連れて来といて何言ってんだって思う。力だってないくせに。

 でも乱獲する可能性があるなら、どうしても黙っていられない。

 ごめん。

 私も例に漏れず高慢な令嬢なんだよ。


「そうですか。肝に銘じておきましょう」

 セレディさんはそんな私に怒ることなく、変わらない笑顔で微笑む。

 どことなく黒い笑顔に見えたのは、最初に聞いた噂のせいだろうか。


「生意気言ってごめんなさい。……あっ。もしかして、キリノムくん顧客から外されちゃいますか?」

 マズい。そこまでは考えていなかった。

「大丈夫ですよ。そのようなことは致しません」

「本当ですか!? よかった……」

「…………まぁ安心しきった顔をされて。疑うことを知らないのでしょうか」


 ん? 気を抜いたせいで聞き取れなかったけど、今何か言ってたよね?

「やっぱり嘘ですか……?」

「………………、駄目です。これは敵いませんね」

 騙したの? と目で訴えれば首を振るセレディさん。

 なぜか証拠に証文まで残してくれた。

 キリノムくんを特別会員のままとする、という内容の書面を。


 何をどんだけ買ったのさ。キリノムくん。


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