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03話 魔王と我が家と私のポジション

 『魔王』。

 その単語を聞いてどんなイメージが浮かぶかと問われれば、人間を滅ぼすだとか残虐だとか非道なことを考えるんじゃないだろうか。


 この世界における『魔王』は、そのイメージとは少し違う。


 魔の存在を総べる王、という定義は変わらない。

 絶大な戦闘力とカリスマ性を持ち、配下という名の軍団を率いてもいる。

 けれど人間に危害を加えることはない。

 むしろ暴走した魔物――魔力はあるが知性を持たない(会話が成立しない)存在――などから人間を護る立場にある。

 遠い昔にそういう和平協定を結んだからだ。


 とはいえ、もちろん無償ではない。

 都度契約を結び対価と引き換えに、その任に当たる。

 しかし魔王自らが領土を出ることはなく、己の力で従わせた配下の者を寄越すのである。

 つまり『魔王』とは、謂わば傭兵集団の長のような存在なのだ。


 それが父さま。


 なんかすごい家に生まれちゃったよ私……。

 実家が魔王城だよ。どうりでお世話してくれる人がいるわけだよね。

 ちょっと前に私が言っていたこの国の名――ロクサリア王国というのは、父さまのファミリーネームからきている。

 魔王なのに人間と同じ様に王国と呼ぶのも変な話だけど、和平協定を結んだ際、便宜上領土をそう呼ぶようにしたらしい。

 でも魔族は完全実力主義なので、父さまが誰かに負ければアッサリ王権交代して国名も変わる。戦国時代か。


 ちなみに魔族とは、魔力と知性を併せ持ち人型をとれる存在の総称だ。

 例を挙げるなら魔人、鬼人、竜人、獣人、悪魔など。

 和平協定前に人間と敵対していた種族を指す。

 ファンタジーでメジャーなエルフは人間側、ドワーフは中立だったので、魔族と括らない別枠扱い。単に種族名で呼ばれている。


 ウチの家族は種族的には魔人である。

 魔法に特化した種族で、扱える属性、耐性、魔力量などが他の種族とは桁違いな魔法チート族だ。単純な強さ的には魔族最高峰。


 だから父さまが簡単に負けるとは思わないけどさ……。

 正直もっと安定した家庭がよかったと思うのは贅沢ですね自重します。

 とりあえず私は『頼むから誰も下剋上しないでくれ!』と毎晩祈ってから寝ることにしている。


 外に出られるようになったら私も仲間を集めに行こうと思う。

 人をスカウトするのは難しそうなので、魔物方面で頑張りたい。

 特にモフモフ!


 前世ではペットなんて夢のまた夢だったのだ。大人になって買ったテレビで動物番組を見るのが関の山。どんなに画面の向こうのモフモフを撫でまわしたいと思ったことか……!

 それにせっかく生まれ変わって優しい家族に囲まれているというのに、すぐに終了なんて絶対に嫌だ。こんな奇跡はきっともうない。

 だから今度こそ私はアットホームもふもふスローライフを満喫する!


「兄さま」

「ん? どうした」

「私はいつ外に出られるのでしょうか」


 兄様の部屋で一緒にまったり中、気になっていたことを訊いてみる。

 危ないからと出されている外出禁止令は、いつになったら解けるのか知りたい。


「そうだな……。生まれたばかりの魔族は魔力が安定していない為に弱い。魔物に襲われたり売買目的の連中に攫われたり、危険が多いのだ。最低でもあと五年くらいは無理ではないか?」

「ご、五年……!?」

 それまでずっと引きこもっていろと!?

 というか、どんだけ外危ないんだよ! 平和な元日本人には想定外だよ!


「行きたいところでもあるのか?」

「いえ特に決まっているわけではないですが、どんな感じなのか様子が見たくて」


 今の私の一日のスケジュールは、終始フリータイムと前世では考えられなかったほど自由だ。まあ、まだ三歳だからなんだけど。

 家庭教師による勉強を開始されるのが二年後の予定。

 だからそれまではぶっちゃけ暇なのだ。

 本を読むくらいしかすることがない。あとお昼寝。


 身体がもう少し成長するまで魔法の使用も禁止されていて、自主練もできない。

 魔力が安定していない肉体だと負担が大きくて危ないんだそう。さっきから危ないばっかりだな異世界。

 だから有り余る時間を活かして色々見て回れたらと思ったのに。

 モフモフの魔物とかを!


 ……ん? でも待って。

 魔物を味方にする方法、本で読んだ限りだと『戦闘により服従させる』ぐらいしか載っていなかった。

 じゃあ今の段階で出会っても、仲間にするのは無理では……?

 いやいや、なんかあるでしょう! そんな戦闘民族じゃあるまいし――あるか。


 「リリ?」

 百面相する私の顔を、兄さまが心配そうに覗き込む。

 お互いの前髪が触れ合ってくすぐったい。

 実はさっきからずっと、ソファーに座る兄さまの膝の上に横抱きにされている。

 兄さまと一緒に居ると座る時はこのポジションが、歩く時は縦抱っこがデフォルト。どんだけ甘やかすのさ。最高か!


 まさに死ぬ間際に夢見ていた理想の兄――いや更に上を行っている。

 とはいえ、さすがに最初の頃は恥ずかしいので逃げていた。

 現実になると心臓への負担が半端なくて、死因がキュン死になるかと思ったよ。

 でもリーチが違いすぎるからあっという間に捕獲され、数回繰り返す内に諦めた。どうやっても捕まる。


「兄さま。魔物を仲間にするのって、戦って倒すしかないのですか?」

「なんだ突然?」

「えーっと、本で知ったのですが気になって」

「ああ、そういうことか。他に無いとも言い切れないが、俺はそのやり方しか知らない。それが一番手っ取り早いからな」

 さすがドラゴンと拳を交えるお人だ……。強者の答えすぎて参考にしかねる。


「あれ? 確か兄さま今朝『火竜の巣を潰した』と言ってましたよね? では火竜は兄さまの仲間になったのですか?」

「いや。負かしたからと言って必ず服従するわけではない。それに俺が相手にしてきたのは亜種……まあ突然変異みたいなもので知性があったからな。そういうやつは意志がなければ従わないぞ」


 ほうほう。魔物でも亜種であれば知性がある――つまり会話ができると。

 ではモフモフ魔物の亜種なら、動物と喋るという夢が叶う! やったー!


「ちなみに従わなければどうなるんです?」

「まあ殺されるだろうな」

「えっ」

 なにそのデスゲーム……。


「で、では兄さまは火竜を」

「殺していない。服従させるのが目的ではなかったし」

 よかった! 意味もなく殺すサイコ野郎じゃなくて!

「でもお家は壊したんですよね……?」

「結果的に壊れた。しかし巣に居た一匹たりとも殺してはいないぞ」

 いやそういう問題じゃないと思う。


「兄さま、無関係なお家を襲撃するのは駄目です。ましてや全壊とか!」

 ドラゴンの巣というのがどういうものか詳しくは分からないけど、完全アウトだよ。菓子折り持って謝罪しても許されないよ!

「戦闘に応じた時点で同意だと思うが」

「結界とかありますよね?」


 この城にも展開されている防御結界。

 外からの攻撃一切を弾き、中からの衝撃を外に漏らさない空間魔法だ。

 高度な魔法なので誰でも使えるわけじゃないらしいけど、兄さまなら余裕。

 兄さまは魔王の子息らしく、桁外れの強さと魔法センスだとよく噂されているらしいのだ。これ噂好きのメイドさん情報です。


「面倒臭い」

「ひどい!」

「……リリ、兄様のこと嫌いになったか?」

 眉尻を下げ、捨てられた子犬みたいな目で私を見てくる。

 うっぐ! そんな顔するとは反則だ。何も言えなくなるじゃないか。

「なりません。大好きです」

「リリ……!」

 思わず本音を言ってしまった途端、返ってくる熱烈なハグ。ち、ちょっと苦しい。

「でも、もうやっちゃ駄目ですよ?」


 人様の家を壊すのはよくない。

 家族は幸せであれ、というのが私の願いだ。

 前世の私のような思いは一人でもして欲しくない。偽善だろうと心がそう勝手に思ってしまうんだよ。

「善処する」

 優美に微笑んで答えてくれる兄さま。

 約束じゃないところが抜け目ない。でもそんなとこも好きです。



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