44話 変わらないもの
今日は家庭教師もお休みで、一日フリータイムである。
私がソラの誕生日ではしゃぎ倒すことを見越した母様が、便宜を図ってくれたらしい。同じことを過去に四度もやれば分かりますか。すみません。
遅めの朝食を摂った私は、天気が良いのでソラを連れて散歩に出た。
この世界は気候が穏やかで、一年を通してあまり気温に変化がない。
だけど例外的に一ヶ月ほど寒期がある。
その時ばかりは雪が積もったりして本当に寒いのだ。
結構積もるのだが、このお城では雪かきなんてことはしない。
魔法で溶かして即終了。
でも人間は魔力が少ないので日常生活に欠かせない生活魔法を優先する。だからそっちに回す余裕があまりないらしく、結構苦労しているみたいだ。
ここでは魔力を多く持った者が生きやすい世界なのだと、要所要所で実感する。
……私の魔力量はどれくらいなんだろう。
ここ最近、身体の中がポカポカと暖かいもので満たされているような気はするんだけど、これが魔力なんだろうか?
「早く練習したいなぁ」
「ガウ?」
「魔法の話だよ」
ソラは庭に出ても昔みたいに私を置いて猛ダッシュすることはしなくなった。
訓練されたワンコのように、常に私の隣を歩いている。
「ガウガウガウ」
「ソラもしたいの?」
「ガウ!」
天狼の姿のままでも、何となくソラが言うことが分かるようになってきた。
五年もずっと一緒にいるからかな。
そういえばソラも魔法が使えるんだっけ。使っているところを見たことがなかったから、スポーンと忘れていたよ。
ソラも私と同じように身体が成長するまで使用禁止だったのかもしれない。
なにせ未成熟な身体で魔法を使い魔力を抑えきれなくなると、暴走して爆死みたいなことになるらしいから。
「そうそう、あんな風に……って、ええええ!?」
目の前のドッグランもどきの広場で突然爆発が起こった。
一瞬にして青い爆炎に包まれる辺り一帯。
半透明の膜で覆われていなければ、ソラを含めて完全に新地になっていただろう凄まじさだった。
「ガルルルルルル!!」
「け、結界を張ってくれていてよかった……」
中にいる人の配慮に心の底から感謝の念を送る。
ありがとう! 庭で爆発実験とかおかしいけども!
『ちょ、兄さん! 殺す気っすか!』
「お前この程度で死ぬのか? 火竜のくせに」
『限度! 魔力の質がえげつないんすから兄さんは!』
フッと解けた結界から漏れ聞こえてくるのは、よく知る声のやりとり。
ホムラくんと兄様だ。
次第に開けた視界に通常サイズのバカでっかいホムラくんと、軍服姿の兄様が腕組みして説教をしている姿が映る。
『あっ、リリちゃん! 助けて! この兄さん、魔法の実験に付き合えとか言って苛めてくるんすよ!』
私に気付いたホムラくんが、ドスドスと足音を響かせて近付いて来る。
小児の私なんかプチッと潰されそうな勢いだ。ちょ、ちょっとー!?
「リリ、おはよう。よく眠れたか?」
どうやって止めようかと見上げている内に、なぜか視界が兄様一色になった。
蕩けるような笑顔の、極上の美形が間近にいる。
「あれ!? いつの間に!?」
相も変わらず縦抱っこの体勢にもっていかれたことに気付き、愕然とする。
兄様が動いたのが全然分からなかった……。
体術もえげつないとか死角なしですか。このハイスペック超人! イケメン!
「止まれ、駄竜。リリを潰す気か」
『んげええ!? てか、扱いの差!』
「今度やったら一生手のひらサイズだからな」
『一思いに殺ってくれないところにドSみを感じる』
ここの関係性は変わらず平和です。




