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42話 変化

 私ことリリシアは八歳になった。


 あれからというもの、五歳の時に家庭教師が来るようになって座学を始めたり、ホムラくんがノイン参謀の要望と言う名の脅迫で小さくなる技を覚えたり、色々あったけどみんなも元気です。それが一番!

 今のところクーデターもなく、父様は魔王の座を守っている。

 このまま何もないことを願いたい。


 私も無事に大きくなり魔力が安定してきたとかで、もうすぐ魔法の練習も外出も解禁される。やったね。

 そしてもう一つ重要なことが。


 ソラが人型をとれる年になったのである!!


 誕生日を語学シートで教えてもらってから祝う事、昨日で五度目。

 私なりに盛大に祝い倒して、ソラは十歳になった。

 以前にも増して身体が成長し、今ではポニーぐらいの大きさだ。めっちゃモフい。


 昨日は誕生日ということでいつも以上に構い倒していたら、私はいつの間にか寝てしまったらしい。気付いたら朝だった……。

 子どもボディーであることを忘れて、完全にペース配分を間違えた間抜けです。

 案の定、寝坊。

 隣で一緒に寝ていたはずのソラもいない。

 さすがに両親と川の字で寝ることはしなくなったので、今は自室で寝起きしているのだ。父さまのスキンシップ度が増したのは言うまでもない。


「ソラどこに行ったんだろ?」

 寝起き頭でキョロキョロと辺りを見回してみても、広い部屋には私しかいない。

 おかしいな。

 寝坊したって今までこんな事なかったのに。


「……とりあえず顔洗おう」

 寝室と続き間の洗面室に向かおうとして、不可思議な状況に途中で足を止める。


 な、中から水の流れる音がするんですけど……。

 なんで!? 誰かいる!?


 ……ま、まさかね!

 この部屋は母さまの魔法で、許可した人しか立ち入れない仕様になっている。

 だから知らない人が入って来ることは不可能。

 許可されている人たちも常識人なので入室の許可は必ず取ってくれる。

 でも蛇口の故障にしては適度な流れ方だ。人が使っているような感じがする。

「……」

 恐怖と好奇心が入り混じりながらソロリソロリと忍び足で洗面室の扉に近付き、そっと聞き耳を立ててみると。


「…………ぐっ、うぁ……!」


 中から漏れ聞こえてくるのは苦悶の声。

 それも少年ぽい幼さのある声だ。

 ……少年、とな。

 うん?

 緊急事態ではあるけれど、不可思議すぎて逆に冷静になった頭が状況を整理し始める。


 一、お城で私以外の子どもを見たことがない。

 二、もし仮にいたとしても許可なく部屋には入れない。

 三、ソラいない。

 これらから導き出される答えとは。

 …………そういうこと、ですか!?

「そこにいるのソラなの!?」


「…………リ、リ……」

 中から返ってきたのは肯定でも否定でもなく、苦しそうに私の名前を呼ぶ声。

 そのことになぜだか直感的にソラだと確信してしまった。

 自意識過剰だと思われるかもしれないが、それくらい私はソララブなのだ!


「ソラ大丈夫!? 中で何が起こってるの!?」

「……人に、なる……練習……してる……」

「ひ、人になる練習!? でもなんでそんなに苦しそうなの? それならしなくていいよ! ここ開けて!?」

「駄目、だ……」

 ドアノブを捻るが中から鍵が掛けられていて、ガチャガチャと音を立てるばかり。

 その間も苦しそうな荒い呼吸が聞こえてくる。


「ソラ!」

「……もう、ちょっとで……慣れる……」

 おいオクソ・キタン!

 こんなに苦しむなんて聞いてないぞ! アンタの著書に書き加えとけ!

 早々にお蔵入りした本に向かって、やり場のない怒りをぶつける。

 そうでもしないと不安で堪らないのだ。


 ソラと普通に喋れるようになるのは嬉しい。

 ずっとそう願ってた。

 ……でも苦しめてまでしたいわけじゃない。

 ソラに何かある方が嫌だ!


 姿が見えないことで不安一色に染まった私の脳内では、バルレイ将軍に噛み付かれて血を流していたソラの姿がフラッシュバックする。

 ――そうだ。もうあんな思いはしたくない。

 嫌だ。止めて。

「ソラお願い、ここ開けてよ……!」

 何度ドアノブを捻っても、目の前の白い扉は頑なに入室を拒んでくる。

 軽くパニックに陥りながら繰り返すが、それでも結果は変わらない。


 次第に力も抜けてきて、情けなく床にへたりこんでしまった。

 瞬きをすればカーペットにポタリと落ちる透明な雫。

 ただの一滴は止まることなくどんどん増え、範囲を大きく広げていく。

 次から次へと勝手に溢れて止まらない。

 やがて水玉模様ができた頃、目の前の扉がガチャリと開閉音を立てた。


「……リリ? ど、どうした……!?」

 流暢な言葉遣いに顔を上げれば、そこに立っていたのは真新しいシーツに包まった男の子。


 体毛と同じ水色と白の髪色は、毛先にいくほど色が薄くなるグラデーション。

 その髪から覗くフサフサの耳は健在で、シーツの先から尻尾も見える。

 アメジストのような紫の瞳はまだ幼さが残るものの、精悍さを感じる。

 十歳くらいに見える綺麗な少年は、私を見ると心配そうに膝を折った。


「ソ、ラ……?」

 半信半疑で呼び掛ける私に、目の前の男の子は照れ臭そうに破顔する。


「そうだよ。やっとリリと話せるな」


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