40話 ボス戦はいつも最上階
結局、行商を頼んだ。キリノムくん経由で。
通販サイトなんて便利なものはないけど、代わりに行商というシステムがあるのだ。空間魔法があるので品揃えも豊富だし、配送を待つ必要もない。現物を見て選べる分、むしろこっちの方がいい気がする。
お酒を買うなら料理人であるキリノムくんが詳しいんじゃないかと相談に行ったら、速攻で呼んでくれた。
例のふりふりエプロンもそこで買ったそうだ。常連ぽかった。
他に何を買ったのか非常に気になる。
行商のおねえさんの「この方が……」という私を見た最初の一言も気になる。
しかしそこはプライベートな買い物。ツッコまずにおいたよ!
……決して訊くと怖いからじゃない。
それはさておき。
私は全財産をはたき、大金貨三枚のお酒一本と残りの大金貨一枚で買えるだけのお菓子を買った。
お菓子は日頃お世話になっている人たちに配る用。
好みがあるし予算も限られているので、無難にお菓子にしたのだ。
ソラにはビーフジャーキー的なやつを買った。尻尾を千切れんばかりに振って喜んでくれたので満足。好きなのかな?
お菓子も配り終え、残りは大本命。
なんやかんや過ごしている内にバルレイ将軍の自宅謹慎が解かれる日が来た。
いよいよ会いに行こうと思う。
この時間、将軍は鍛錬場で魔王直属軍の皆さんに稽古をつけているはず。
事前リサーチはバッチリだ。
そこへ突撃しようという算段である。
「ソラはお留守番してる?」
また図書館の時みたいな視線に晒される可能性もなくはない。
まあ多分大丈夫だとは思うけど。
母さまのお手伝いの時に一度会っている人もいるし、魔王直属軍の皆さんは文官の皆さんや、ましてや一般の人より身内っぽい雰囲気がある。
ソラの周知度も上がってきたし、魔物でも無害だと分かってもらえれば警戒される理由もないと思う。多分。
「ガウガウ」
「じゃあ一緒に行こうか」
「ガウ!」
お酒を持とうとする私からソラが包みをヒョイと奪う。
そのまま器用に口に咥えて歩き出した。
私の周り紳士しかいない!
ソラを連れだって鍛錬場へ向かう。
お城の裏側を通ればあまり人に会わずに行けるのだ。
途中ふと見た庭でホムラくんがノイン参謀に叱られていた気がするけど、ここは気のせいだということにさせてもらった。ごめん……!
尊い犠牲を払い目的地へ到着。
相変わらず不気味な風貌の建物だ。
謎の血痕と刀傷だらけの六階建ての建造物は、まるでホラーアクション映画にも使われそうな雰囲気を醸し出している。
思わずゴクリと喉が鳴ってしまう。
「い、行こうか」
「ガウ」
映画の登場人物のように意を決して乗り込む。
目的は最上階。
吹き飛んでも大丈夫なこの階をバルレイ将軍は好むと聞いた。
予定通りならそこにいる。
どんな理由だよ、なんて冷静にツッコめないほど、私の頭は将軍に会った時の予行演習で埋め尽くされていた。




