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02話 二度あることは三度ある

「ディー。任務は終わったのか」


 父さまが私を抱っこした状態のまま、兄さまに真面目な話を切り出す。

 降ろさないのかと目で問えば頬にキスが返ってきた。違います父さま。

 かまってくれの合図じゃないよ! ほら兄さまも睨んでる!


「つつがなく。昨晩の内に戻っていましたが、腹の虫が治まらないので少々外で暴れてきました」

「あらあら。ディーったら仕方のない子ねぇ」

「申し訳ありません、母上。そのまま戻れば屋敷を破壊しそうだったので」

「……何処か消滅させてはいまいな?」

「火竜と殴り合って、やつの巣を潰しました」

「お前……」


 なんと兄さまってばドラゴンとケンカをしてきたらしい。


 この世界、ファンタジーでお馴染みの魔物も存在している。

 なのでドラゴンも普通にいる。確か一個体で国とか簡単に滅ぼせる強さのはずだったと思うんだけども。マジか兄さま。


「何かあれば自己責任だぞ……。それで任務の首尾は?」

「これと言って問題はありません。ですが正直二度と御免被りたい。いくら隣国の王族からの依頼とはいえ、面倒が過ぎます」

「まあそう言うな。これが我が国の生業であり、外交の一環でもあるのだ」

「一応心得てはいます」

「ならよい。今日はゆっくりと休め」

「御意に」


 兄さまはこの国――ロクサリア王国と隣接しているネイデル王国の王室から依頼を受け、外遊で他国へ赴く王女殿下御一行の警護をしてきたのだ。


 我が家は前世で言うところのSPみたいなことを家業としている。


 兄さまはそのお仕事帰りというわけだ。

 任務を受けて家を出たのが、確か七日前。

 怪我は全くしていないみたいで安心だけど、なんだか疲れているように見える。


 あ、任務終わりにドラゴンとケンカしてきたんだっけ?

 おいおい兄さま、無茶しすぎだよ。というか、無傷ってどんだけ強いの!

 愕然として見つめていると凛々しい瞳と目が合う。


「リリ」


 途端に向けられるものすごく甘い笑顔。

 クールな表情からのギャップが凄い。思わず見惚れちゃう。


「兄さま、お帰りなさい。ご無事で何よりでうわあ!」

 言い終わる前に近付いてきた兄さまに、軽々と抱き上げられた。

 片腕に乗せられて縦抱っこ状態。めっちゃ良い匂いがする!


「会いたかった」


 恋人に囁くように甘ったるく言うと顔中にキスしてくる兄さま。

 私を手から奪われた父さまは若干不満げに、母さまはニコニコとその様子を見守っている。仲良し家族です。


「じゃなくて! ちょ、兄さま」

「何だ?」

「は、恥ずかしいのでその辺で」


 仕事に追われて恋人を作るどころじゃなかった前世持ちの私には、耐えられない所業だ。心臓が持たん!

 これ以上はノーサンキューと程良く筋肉が付いた胸元を手で押して突っ張ってみるが、瞳が蕩けていくばかり。なぜだ。


「そ、そうだ兄さま! 王女さまは可愛いかったですか?」

 居た堪れなくなって無理矢理話題を振ってみる。


 確か婚約の申し込みが後を絶たないとか、そんな噂を聞く人だったはずだ。

 この世界、携帯もデジカメもないので写真が出回ることはない。直接会う以外だと、肖像画を見るくらいしかないのだ。


「全く」

「ええ!?」

「ベタベタと密着してきて非常に迷惑な女だった」

 綺麗な眉をぐっと寄せ、本当に迷惑そうな顔をする兄さま。

「で、でも妖精みたいに愛らしいって噂ですよ? 違ったのですか?」

「…………………………。まあ多少見目がマシだったか?」


 沈黙長いよ。

 あれか。このお城の人間の顔面戦闘力のせいか。

 それとも母さまが美人すぎるのが駄目なのか。両方だねきっと。


「しかし触られて吐き気を堪えるのが大変だった」

 おぅ……。

 もうそれ完全にセクハラされた時の感想じゃないですか……。


 それで鬱憤を晴らす為に火竜とケンカしてきたらしい。一国を滅ぼせる相手と。

 身体を動かして気分転換ってレベルじゃない。ストレス値が振り切れてるよ!


「だから疲れた。リリ、癒してくれ」

「ぅえ!? え、えーっと、お疲れさまです?」

 突然の無茶ぶりに動揺したものの、なんとなくすぐ目の前にあった兄さまの頭をよしよしと撫でてみる。


 すごいサラサラだ! と一人感動していれば嬉しそうに目を細めた兄さまから、ちゅーのお返しが返ってきた。

 額に頬や瞼にと、啄むようなキスが止まらない。


 父さまもそうだけど、兄さまは私に対してスキンシップが過剰だ。

 母さまはこの二人に比べればまだ普通……と思いきや充分私に甘い。

 その理由はなんとなく分かっている。


 父さまにとって、私は約千三百歳にして生まれた娘。

 母さまにとって、私は約八百歳にして生まれた娘。

 兄さまにとって、私は約百年後に生まれた妹。


 これだけ年が離れていれば、猫可愛がりもしたくなるのだろう。

 冗談で言っているんじゃない。

 寿命が長いのは種族の特徴なのだ。


 ――今世の私は人間じゃない。


 容姿こそ人間と変わらないけれど、魔力量も身体機能も何もかも、圧倒的に凌駕する存在――魔族に生まれ変わっていた。

 しかも魔王の娘に。


 なんと今度は家系がブラックでしたわ。


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