37話 見た目じゃ何も分からない
で、デカい……!
兄さまに抱っこされたままやってきたドラゴンの元。
見上げるのも首が痛くなるほどの大きさだ。
鮮やかな真紅の鱗、艶のある硬質そうな黒い角と尖った爪、瞳孔が縦に長い瞳は白銀で刃のように鋭く輝いている。
羽ばたけば吹き飛ばされそうな大きな翼は左右に二枚ずつ。
尻尾も長く鞭のようにしなやかだ。
佇む姿は威厳に満ち、まさに王者の風格。
か、格好良い! めちゃくちゃ強そう!
兄さまよくこんなドラゴン服従させられたな……。
並みの強さじゃ心が折れそうだよ。ラスボスだよ。
ソラもめちゃくちゃ警戒して呻っている。なんか凄い顔になってるよ?
「リリ? どうした黙りこくって」
「いえ、あまりの大きさと格好良さに絶句してました」
「格好良いか?」
「はい! とても!」
「……まあ黙っていればそう、か?」
「? 黙っていれば?」
「ああ。こいつは前に俺が巣を潰した時の亜種。要は喋れる特異個体だ」
なんですと!?
「じゃ、じゃあ会話できるんですか!?」
「一応は……」
「兄さま? なんでそんなに歯切れが悪いんです?」
認めたヤツしか話さねぇ! とかそういう感じなのかな。
「多分……いや絶対後悔するぞ」
「しませんよ! ドラゴンと話せるなんて夢のようですし!」
「…………、リリがそう言うなら」
はぁ、と大きく溜め息を吐くと兄さまはドラゴンに視線を合わせる。
「おい。もう喋ってもいいぞ」
ん? 禁止してたの? なんで?
『いやー。黙ってんのマジしんどいっすわー』
えっ。
なに今の。
なんかチャラい兄ちゃんの声がしたよ……?
キョロキョロと辺りを見渡すが私たち以外には誰もいない。あれ?
『つーか何すか、そのかんわいい子は! 早くオレにも紹介してくださいよ!』
…………うん。ちょっと待ってくれ。いやそんな。
「……兄さま」
「そのまさかだ」
ドラゴンチャれええーー!!
え、なに!? 威厳と風格は!?
綿菓子くらい軽いんですけど!?
凶暴そうな大きな口が開閉したと思ったら、聞こえてきたのはなんとも緩い言葉だった。
『そっちの天狼くんもそんなに睨まないでくださいよぉ。オレ何もしてないじゃないっすかー』
「ガウゥゥゥ……!」
『ヤバいめっちゃ嫌われてる。凹む』
なんだこのドラゴン。会話できるとかそういうレベルじゃない。人間味溢れすぎだろう。駄目だツボる。
「リリ?」
「ふっ、すみません。喋るとギャップが凄くて」
「力はそれなりなんだがな……」
兄さまが喋るなって命令してたのはこのせいか。
笑っちゃ失礼だと思うけど堪え切れず肩が震える。ぶふっ!
『なんか笑われてる……。もうダメ。オレ心が折れた』
巨体をショボンとさせるドラゴン。どう見ても厳つい見た目なのに、妙に可愛い。
って、まずい。落ち込ませてしまったよ。
「えっと、笑ってごめんなさい。許してくれる?」
『…………』
チラッとこちらを見てくるドラゴン。よし、もう一押しだ!
「よければお友達になって欲しかったんだけど」
『はい、よろこんで!』
居酒屋の店員並みの元気な返事をもらえた。
うん、やっぱドラゴンじゃないよ。チャラい兄ちゃんだよ。




