34話 カフェテリア
やって来ましたカフェテリアへ。
ダークグレーと白色の市松模様の床タイル。白い丸テーブルと黒いスツールというモノクロな組み合わせが、何十組と整然と並ぶモダンな空間。
間接照明と天井ファンが落ち着いた雰囲気を演出している。
ここ魔王城だよね……?
そして私の格好、この場に合ってなくない?
「キリノムくん」
「はい」
「なんか私、場違いでは? せめてこの衣装をなんとかしない?」
「しません! はぁ……、似合いすぎて辛い……」
ダメだこの人トリップしてる!
「……うん、まあ現責が言うならしょうがないか。仕事の説明をお願いします」
「そうでした。リリシア様はお客様が来たら席にご案内して、注文を伺ってください」
「了解です」
まさしくファミレスのバイトだ。前世でやったことはない。
大丈夫かな……。こ、子どもだと思って大目に見てください。
「分からないことがあったら彼女に訊いてくださいね」
キリノムくんの紹介で現れたのは、元気そうなおねえさん。
オレンジ色の髪をポニーテールにし、同じ色の瞳が爛々と輝いている。
「コルネだヨ! 何でもワタシに言ってネ!」
ブンブンと手を上下に振って握手してくるコルネさん。
ちょ、そんなに揺らしたらシャツのボタンが飛びそうだよ! 胸部のボタンが!
「り、リリシアです。よろしくお願いします」
ハラハラしながらもペコリと頭を下げる。
最初の挨拶って大事だと思う。これで印象が変わる気がするし。
「うわぁ可愛イ……。偉そうにしないシ、キリちゃんが心酔するのも分かル!」
偉いのは私じゃなくて父さまたちだからね。見た目も両親のおかげです。
「そうだろう? そして僕をキリちゃんと呼ぶな」
「じゃあキリちゃんは調理場に戻って調理に勤しんでネ。リリ様は責任もって預かるヨ!」
「リリ様と愛称で呼ぶな殺すぞ」
「ほら行っタ行っタ!」
グイグイと押され追い出されるキリノムくん。コロネさん押しが強い……。
ソラはというと今回お留守番。
一応飲食をするところでのお仕事なので、私の部屋で待機してもらっている。
めちゃくちゃゴネられたけどなんとか押し切ってきた。
あとで目一杯遊ぼうと思う。
「リリ様にはこれをあげるネ」
「? ああ、注文をメモする紙ですね」
小さなバインダーに挟まれたオーダー表とペンを受け取る。
ペンが差さっている小さな穴にはインク入り。溢さないようにしないと。
「そうだヨ! テーブルに番号が書いてあるかラ、注文を聞いたらテーブル番号とメニューをメモしてネ」
「はい、分かりました」
「困ったことがあったらすぐに呼ぶんだヨ?」
「ありがとうございます。頑張ります!」
「休んだあの子よりずっとここに居て欲しいナ……」
劇薬マニアさん、リストラされかかってますよ。早く治して!
「いらっしゃいませ!」
初めてのお客さんのご来店。
文官制服のおねえさん二人組だ。
書類仕事をする文官の人たちは白い軍服が制服。
魔王直属軍の皆さんとは色違いのデザインなのだが、高潔な感じが格好良い。
「え、あれ? リリシア様……ですよね?」
ボブカットのおねえさんが疑問符を頭に浮かべて困惑する。
「はい、本物です。今日だけ臨時のウェイトレスをさせてもらってます」
「そんなスペシャルデーがあるなんて聞いてない……ッ!」
もう一人のストレートロングのおねえさんが衝撃を受ける。
まあ魔王の娘がこんなことしてたら驚くだろう。おまけに幼児だし。
「お席にご案内しますね」
「「ぜひっ!」」
提案すれば二人が揃って手を差し出してきた。ん?
「「手を握ってもいいですか?」」
「? はい、いいですけど」
顔を見合わせて喜んだ二人に両方の手を取られる。また宇宙人連行の図だ。
オーダー表はお客様であるボブカットのおねえさんが持っている。
なんだこれ。こんな案内の仕方ある? ないよ!
「やばい。みんなに自慢しよう!」
「もう私、手を洗わないわ!」
「ちゃんと洗って!?」
この二人、席に着くまでずっとキャーキャー言ってた。元気で何よりです。
続いてオーダー取り。
コルネさんが案内した人たちの注文が決まったらしく、「すみませーん」と呼んでいる。
コルネさん以外にもいるスタッフのみなさんの手が塞がっているので、私が向かうことにした。
「ご注文がお決まりですか?」
「「「は!? リリシア様!?」」」
これまた文官制服姿の男性三人組が、イスをガタンッと揺らし動揺する。
このカフェテリアには文官の人が多い。
インテリ系の人たちは落ち着いた雰囲気を好むのかもしれない。食堂は結構賑やかだからね。
「はい、初めまして。臨時のウェイトレスです」
ペコリとお辞儀をすれば三人は天を仰いだ。
「俺は明日ディートハルト様に目を抉られるかもしれない……」
「いや、跡形もなく消し飛ばされる……」
「遺言書こう……」
悲しみに包まれる三人組。もうお通夜だ。
さすがにそこまでしないと思うよ!?
「あの、兄さまには私から言っておきますから……」
「「「お願いします!!」」」
必死か。
三人は遅めの日替わりランチを頼んだ。
続いてもオーダー取り。
今度は私服姿の男性だ。優美な雰囲気でちょっと遊び人っぽいおにいさん。
「コーヒーを頼むよ」
なんとこの世界、コーヒーも紅茶も緑茶もある。
さすがにうちの国では栽培していないので隣国からの輸入品だけど。
ノイン参謀がゴミ扱いしていたツバク連合国との貿易で入ってきたものだ。
結構役に立ってますよ参謀!
抗議したら多分、原産国に輸入ルートを取り付ける。面倒だからまとめて輸入しているだけに過ぎないとか言いそう。
……いや、今は仕事に集中しなければ。
「はい、畏まりました。コーヒーですね」
「きみはオーダーできないのかな?」
私の髪を一房取り口付けると、柔らかく微笑むおにいさん。
キャバクラじゃないんで☆ とツッコむところなのだろうか。
通じないか。キャバクラないし。
「非売品だヨ。何してるノ……?」
いきなり背後に抱き寄せられたと思ったら、コロネさんの低い声がした。
「こ、コロネさん!?」
「よシよシ、怖かったネ。この色魔は八つ裂きにしておくネ?」
「いやいやいや! こんな美形を殺せば世の女性が悲しみます!」
「それはボクを口説いている、と思っていいのかい?」
ハアハア言ってうっとり見つめてくるおにいさん。あ、危ない人だ!
兄さまとかお城の人たちには湧いたことのない嫌悪感でゾワゾワする。
「頭湧いてるノ? 慈悲深くもアンタを殺させない為の方便に決まってるじゃなイ。脳みそ付いてル?」
「こ、コロネさん!? 一応お客さんなんだし、そんなこと言っちゃダメだよ!?」
「リリ様に手を出す変態野郎はお客じゃないヨ」
うん、まあセクハラする人は私的にもアウトです。




