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28話 言い付けは守らないと痛い目をみる

軽い流血表現があります。ご注意ください。

「……ペッ。クッソまじぃ」

 ビチャッと地面に吐き捨てられる血と赤黒い塊。ソラの体毛がいくつも混じっているのが、酷く生々しい。


「し、将軍!! 何してるんですか!!」

「ああ? 躾だ」

「過激すぎます! ソラが死んじゃう……!!」

 ドサッと地面に落ちたソラは首からドクドクと血を流している。

 それでもすぐに起き上がろうと、覚束ない脚でヨロヨロしていた。


「将軍、降ろして!」

「わ、分かったから暴れんな! 危ねぇだろ!」

「ソラ!!」

 腕から飛び降りるようにして駆け寄る。

「…………ガウゥ」

 呼び掛ければちゃんとしっかり立って、精悍な目つきもしていた。

 よかった……。

「いやよくない!! 止血! 止血しないとほんとに死ぬ!」

「落ち着けって。ちょっと表面を齧っただけだ。首の骨も折っちゃいねぇし、死にはしねぇよ」

「でもこんなに血が出てる……!」

 応急措置としてポケットに入れていたハンカチで押さえているが、すでに真っ赤で止血の意味をなさない。

 手のひらにも温かい液体の感触がじわりとすぐに広がってくる。


「……そんな目で見んなよ」

 バツが悪そうにガシガシと頭をかくバルレイ将軍。

 将軍にとっては何でもないことみたいで、罪の意識は感じられない。

 こんな暴力的なのが将軍の世界なのだろうか。

 そう思った途端なんだか悲しさが限界を超えてしまい、心臓がきゅっとなったら涙が自然と零れてきた。


「ふぇ……」

 次から次へと溢れ出し、ボタボタと地面に落ちる。

 泣いている場合じゃないのに止まらない。


 キャパオーバーだ。


 こんな血と暴力が当たり前な過激な世界、私は知らない。

 中身はアラサー手前の大人だけど、幼い肉体の素直な反応に逆らわず大号泣してしまう。

「お、おい! なっ、泣くな」

 二メートルを超えた美丈夫がオロオロしているが構ってられん!


「ひっぐ……、えぐっ」

 手は止血した状態のまま、ソラの柔らかな体毛に顔を埋める。

 将軍は死なないって言ってたけど、そんなの分からないじゃないか。

 今はこんなに温かくても命はたまにあっさり消えてしまう。

 失ってからじゃ取り戻せないのだ。


 …………そうだよ、泣くのは後にしろ自分!

 まずソラを治すのが先だ!

 段々と冷静になってきた頭ですべきことを思い出す。

「……ソラ、動かないでね」

 スンスンと鼻をすすり呼吸を整える。

 頭に浮かべるのは一つの魔法。

 魔力が安定しない内は危険だから使うなと言われているけど、逆に言えば私には魔力があるということ。

 そんなの使わない手はない。


 実践はまだでも魔法の発動の仕方と呪文は知っている。

 日頃の読書の成果だ。

 出来るかどうかは分からない。相性も知らない。

 でもやる。

 私にもできることがあるならやりたい。

 自分の手でソラを助けたい。

 失敗したら直ぐに母さまを呼んでもらおう。その時は将軍、お願いします。


「おい、リリシア? お前、何しようとして」

 私が使おうとしているのは一般的な治癒魔法。

 欲張って失敗しないよう高難度の治癒魔法は使わない。

 いきなり完全に治そうとは思っていない。初心者に無理なのは分かってる。

 血を止めることが目的だ。

 それさえできれば、失血死は避けられる。


 目を閉じ集中し、身体を流れているはずの魔力を活性化させるように意識する。

 発動に重要なのは意志の力。

 呪文はイメージを促す為のトリガーにすぎない。

 望む結果を頭に描き、相手に向かい魔力を放出するように詠唱する。


「……【我が身に宿る魔力よ、意志に従い彼の者を癒せ。治癒!】」


 開眼すると同時。

 光の粒子がソラを包む。

 母さまの魔法より弱く淡い光だけど、それでもキラキラと輝きソラの身体に染み込んでいく。

 やった、成功だ!


「ガウ……」

 ソラが驚いたように紫の瞳をパチパチと瞬かせる。

 なんだそれ可愛いな。

 ――そう思った次の瞬間。


「あぐっ……!!」

 全身を串刺しにされたような激しい痛みが私を襲った。

「バカ野郎! そんな未熟な身体で魔法なんか使いやがって!」

 バルレイ将軍が何か叫んでいるが痛みで聞き取れない。

 体の中から何かに突き破られそうに痛い……!

「ああああああああ……!!」

 耐え切れず絶叫する。

「クソッ! オレじゃどうしようもねぇ!」

「ガウガウ!!」

 ソラまで何か叫ぶように吠えているけど、聞き取れない。

 痛い! 助けて!! そればかりが頭を占める。


 次第に音も視界も何もかもが遠くで反響するように歪んできた。

 意識も遠くなる。

 最後に一瞬見えたのは、多分一生懸命吠えるソラの顔。

 元気そうでよかった……。


 そこで私の意識はプツリと途絶えた。


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