01話 リスタート
「おはようございます。父さま、母さま」
目の前の超絶美形カップルに向かって頭をペコリと下げる。
親しき仲にも礼儀あり。挨拶は大事である。
というか、単純に言える相手がいて嬉しいんだよ!
「おはよう。リリシア」
目が潰れそうなほど眩しい笑顔を返してくれる、二十代前半くらいに見える美女。
少し青みを帯びた輝くプラチナブロンドの長い髪、同じ色の睫毛で縁取られた瞳は、雲一つない澄んだ空色。
品良く色づいた薔薇色の唇は優美に弧を描いている。
何食べたらそうなるんだと言いたくなるほどのナイスバディが、純潔を思わせる白いドレスにアンバランスに包まれているのが色っぽい。
本当に子持ちですかと言いたくなるこの人は、母ティエル。
「リリ。こちらへおいで」
腰にきそうなバリトンボイスで私を呼ぶのは長身の美丈夫だ。
サラリと流れる黒髪、対照的に輝く黄金の瞳は瞳孔が縦に長く、猛禽類のように鋭く気高い。理想的に筋肉が付いている引き締まった体躯は、どんな彫像よりも美しいと思える。
その身を包む金のラインが入った漆黒の詰襟軍服がまた似合っている。
大人の色気溢れまくりの見た目三十歳ぐらいなのが、父ギルフィス。
この二人が今世の私の両親だ。
「今日もリリはとても愛らしいな」
父さまに近付いた途端、ヒョイッと片腕に抱っこされる。
わぉ、なんという安定感。
蕩けた笑顔の超美形が目の前でドキドキするよ!
「父さまもかっこいいです」
「そうか? それは嬉しいな」
素直に感想を口にしただけなのに、頬にちゅーの嵐が止まらない。
ふはっ、くすぐったい!
「あらあら。相思相愛ねぇ」
「母さまもきれいで優しくて大好きです!」
「まあ~。私も大好きよ」
前世の両親には言えなかったことを思う存分口にする。
どうやら私は前の人生を記憶したまま転生したらしかった。
しかも異世界に。
それを自覚したのは生まれた直後だ。うん、早かったんだよ。
きっかけは魔法の存在。
生まれたばかりで色々と身体にくっ付いているものを【浄化】という、いわゆる生活魔法でキレイさっぱりにされて、「魔法だ!」と感動した。
当然ちゃんとした言葉にはならなくて「あぅーあ!」と謎の発言になったけど、赤ちゃん言葉を発した自分を冷静に捉える思考に気付いて、あれ? なんか記憶あるぞって大発見。
本当に生まれたてなら魔法や自分の滑舌の悪さにビックリしたりはしないだろう。
起きていられる時間が長くなってからは、さらに驚きの連続が待っていた。
まず居住空間。
なんと我が家は「なにこれCGか!?」ってツッコミたくなるような、現実離れした豪華絢爛な建物だったのだ。でも成金趣味ってわけじゃなく、芸術性の高い洗練された豪華さという感じ。
正直に言って城だよ! 比喩表現でなく本当にお城だった……。
次に驚いたのは人。
赤ちゃんである私を一日に何人もお世話しに来てくれた(リアルメイドさんがいる)んだけど、元の世界にはあり得ない色彩を持っていた。
薄ピンクや水色の髪、真っ赤な瞳とか天然ものではまずない。
それに見合うように美形率も異常に高いのだ。
みんな目鼻立ちがハッキリとしていて、かといって濃すぎるわけじゃない絶妙なバランス。平凡顔すらほぼいない。
まだ城の敷地から外に出たことがないから分からないけど、民間人までそうだとしたら何だこの世界。
平たい顔族だった私にケンカを売っているのだろうか?
今の私はまだ三歳なので、危ないからと外出禁止令を食らっている。おかげで街の様子を知らないのだ。
「どうした、リリ。眠いのか?」
あれこれ回想してしまいボーッとした私の頬を、父さまが優しく撫でる。
そうじゃないのにそんな撫で方をされると眠気がきてしまう。幼児の睡眠欲って恐ろしく強い。
三年過ごして分かってきたけど、中身はアラサー手前なのに、肉体年齢に行動が引っ張られてしまうことがよくある。うぅ……眠い。
「おはようございます。父上、母上。リリもおはよう」
ウトウトしかけていると、背後からした美声が眠気をふっ飛ばした。
豪奢な扉から登場したのは同じく豪奢な超絶イケメン。
父さまと揃いの黒髪は前髪が少し長く、そこから覗くのは意志の強そうな金の瞳。
すっと通った鼻梁に形の良い唇と、全てが一々美しい。
少年から青年へと変わった直後の独特の色気を惜し気もなくダダ漏れにしているこの人は、兄であるディートハルト。
父さまよりも簡易な感じの黒い軍服を着ているのだけど、似合い過ぎていてなんかもうエロい……!
令嬢ホイホイもいいとこ――いや同性も余裕でいける。そのくらいの完成美。
ちなみに私は母さま譲りのプラチナブロンドに、父さま譲りの黄金の瞳。フリフリのドレスがめちゃくちゃ似合う美少女になっている。
最初に鏡を見た時に気絶しそうになったのはいい思い出だ。
そしてまだ慣れない。