20話 執事の誓い
「御目覚めになられた気配を感じ、お水をお持ち致しました」
「ガウゥゥゥ……!」
メルローがベッドサイドに来た途端、子天狼が威嚇をし始める。
兄さまの言っていた通りだ。守ってくれているとでもいうのだろうか。
「この人は大丈夫。とても優しい執事だよ」
「……ガウ」
顎下をスリスリと撫でながら説得すれば、大人しくなる子天狼。
もうダメだ。私はこの子にメロメロだ!
「…………滅相もございません。わたくしは執事失格にございます」
「ぅえ!? なんで!?」
どうした有能執事! なんでいきなり自信喪失してるの?
今もスマートに給仕してくれている様は、紛れもなく超一流だというのに。
「リリシア様に大丈夫だと申しておきながら、御怪我をさせてしまいました」
「ああ。この子のことだよね? いやあれは不可抗力って言うか……。そうだ、首輪が壊れてたんだよ! 電撃が止まらなかったし。だから助けようと思ってああなっただけで」
「いえ。戒めの首輪は、反省をさせる為に装着者が気絶するまで止まりません」
設計ミスだろ。
「そんな危ない代物を……。でも私には電撃が来なかったんだけど、どういうこと?」
「リリシア様には攻撃系魔法が無効でございますから」
「ぶふぉ!」
飲んでいた水を勢いよく噴射してしまった。
すかさずメルローが口元を拭いてくれる。子天狼にかからなくてよかった……。
「私って攻撃系魔法無効なの?」
「はい。旦那様と奥様の特性を引き継がれたのでしょう」
さすが魔王夫妻。スペックが半端ない。そして私も大概だ。
自動翻訳に続き魔法攻撃無効ボディーときた。
スローライフ希望者には持ち腐れじゃないだろうか。
というか、そんな重要事項早く教えて欲しかったよ! 当たり前すぎて気付かなかったとかなら怒るよ!
「リリシア様」
メルローが胸に手を当てスッと膝を折る。こ、今度は何ですか。
「どうかメルローに罰を御与えください」
「はい!?」
「監督不行届きにより、貴方様に御怪我をさせてしまった罰を」
「いらないよ!?」
何を言い出すんだこの執事は!
仕事のし過ぎで鬱モードにでも入ったのだろうか……?
「メルローはこの大きなお城を任されているのに、私のこともよく見てくれてる。今だって目が覚めて喉乾いたなーって思ってたら、すぐに水を持って来てくれた。とっても優秀です! 感謝こそすれ罰なんかとんでもありません!」
だから自信持って!
「リリシア様……。しかしそれでは、わたくしの気が治まりません。ではこう致しましょう。ここに拷問用の薬がございます。飲めば体中の血液の三分の一を失うまであらゆるところから吐き出し続ける劇薬です。こんなものではリリシア様の体験なされた痛みとは比較にもなりませんが、これを服薬致しますので見届けて頂けますでしょうか」
「そんなもん見せられるこっちが拷問だよ!!」
メルローの手から赤い液体の入った小瓶を強奪する。
ここの人たち拷問好きすぎか! さすが魔族!
「見苦しいかとは思いますが御容赦を」
「違うよ! もっと自分を大事にして……?」
「死には致しませんが」
「いやそういう問題じゃない」
危機察知能力ちゃんと仕事してくれ。
「……じゃあこうしてくれないかな? 私の気付かないところでこの子が困ってたら、助けてあげて欲しい」
子天狼をメルローにずいっと近付ける。
「ガウゥゥゥ……!」
「……この畜生をでございますか?」
仲悪いな……。
「私の迂闊な行動のせいで、この子の印象を悪くしちゃったんだ。それに今までいたところでも冷遇されてたみたいだし、味方が必要だよ」
誰も味方がいないなんて、まるで前世の私だ。
周りに人はいても歓迎されていない空気。居心地の悪さ。
そんなものはこの子に味合わせたくない。
温かい人生を送って欲しい。
「私は誰よりも味方になるつもりだけど、残念ながら私はまだ子どもで力もない。だからメルローが協力してくれたら心強いんだよ。お願いします」
メルローの目をしっかり見て訴える。
数秒見つめ合えばメルローは眉間のシワを解除して、ふぅっと溜め息を吐いた。
「…………畏まりました。その様な事でよいのであれば」
「本当!?」
「執事に二言はありません」
武士じゃないの? まあいいや!
「ありがとう、メルロー!」
「リリシア様には敵いませんね」
え? 最弱だよ?
だって今、急に立ち上がったせいでちょっと足挫いたし。
ふかふかすぎでしょこのベッド。




