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16話 もうなんか色々酷い

軽い流血表現があります。ご注意ください。

 やばい。

 何がってモフモフ加減が!


 私は今、夢中で子天狼を撫で回している。

 父さまに返却する前にちょっとぐらい触ってもいいだろう! と謎の自己弁護をしつつ欲望に身を任せているのだ。ふわふわ……!


 しかしこの子もよく寝るな。これだけ触ってるのに全然起きない。

 睡眠の魔法でもかけられているとか?

「!」

 と思ったらパチッと開かれる瞳。

 すごい綺麗な紫色だ。宝石みたいにキラキラと輝いている。

 ぬいぐるみ量産計画が頭を瞬時に駆け巡るほどの愛らしさだ。


「ガウゥゥゥ……!!」


 と思ったら愛らしさ一転。

 子どもなのに立派に生えた牙を剥き出し威嚇してくる。

 ちょ、待って! 落ち着こう話せば分かる! 電撃流れちゃうから!


「ガウッキャイン!!」

 両手を挙げて触りませんよアピールをしていた私に噛み付こうとした途端、後ろに仰け反る子天狼。ああああ……!

 思わず手を差し伸べてしまいそうになるが、逆効果だと気付き引っ込める。


 ど、どうしよう!? 部屋から出ればいいの!?

 ジリジリと後退り距離を取りながら様子を見るも、ずっと雷魔法が攻撃し続けているのかキャンキャンと吠え苦しむばかりだ。


 お、おいおい。首輪壊れてんじゃないの……?

 一秒、二秒、頭で数えてみるが止まる様子がない。

 ベッドからも転がり落ちてしまった。


 駄目だこれ!


 首輪を取ろうとダッシュで戻り手を伸ばした瞬間。

「ガウッ!!」

「痛っ……!!」

 強い衝撃の後にポタリと赤い雫が毛足の長いカーペットに落ちる。

 生存本能の成せる業か、苦しみながらも子天狼は自身に向けられた私の手にガブリと噛み付いたのだ。

 左手首にメリメリと丈夫な牙が食い込む。


「っ……!!」

 めり込んだ牙から私にも電撃が伝わ……らない!?

 けど死ぬほど痛いいぃぃ……!!


 死んだ時すら痛みは一瞬だった。

 なのに今は全身の血が逆流するように痛い。無理!!


 早く首輪を取ってしまいたいのに、モフモフな毛に埋まるように締められている首輪はベルトの留め具がない。

 というか首輪自体が金属で出来ている。


 どうやって取るんだこれ!?

 焦りと痛みで完全にパニック状態の私は余計に頭が回らない。

 普通のペットの首輪を想像してしまったアホさ加減に嫌になり、他に手がなくて歪めて隙間を作ろうと力を込めるしかない非力さには絶望する。

 余計に血が流れるばかりで何の効果もないのに、それでもこの子を助けたいという思いばかりが募る。


 だけどそれも長くは続かず、次第に意識が霞み始めた。

 目の前の子天狼の輪郭が二重、三重にぼやけ、手の痛みも熱いとだけしかもう感じない。


「……ごめ……ね」


 薄れゆく意識でぼんやりと思ったのは、助けを呼べばよかったという、今更すぎる冷静な判断だった。


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