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172話 予期せぬ事態へ

 自室に戻ればソラはソファーに、アイスくんは出窓に凭れてウトウトしていた。

 ナギサくんは魔王執務室へ行く前に部屋に戻ってもらっているので、この場にはいない。


「ん、お帰り。リリ」

「ふぁ……。シアちゃん戻って来たんだ」

 気付いた二人が眠気を振り払うように挨拶してくれる。本当にお疲れだ。

「ソラ、眠そうだから話は明日にするよ。アイスくんも部屋を用意してもらうから、そっちでゆっくり休んでね」

「んー……、でも」

「ボクはもうちょっとここにいたい」

 アイスくんはフラフラとこっちへやって来ると、立ったまま私を抱き枕代わりにぎゅっとしてきた。……寝ぼけてる?


「! おい、放せ!」

「やだよ。柔らかくて気持ち良いもん」

「やめろ! リリから離れろ!」

 いきなりバッチリ覚醒し、ケンカ腰に唸るソラ。

 ぽやぽやモードからの変わり身が凄い。

「アイスくん、寝るならベッド使っていいから。私が別の部屋に――」

「じゃあシアちゃん、一緒に寝よ」

「はい!?」

「何もしないから。手繋いで寝るだけ。ね?」

 どこの恋人同士ですか。


「……お前、さっきからいい加減にしろよ」

「なんだよ。キミだってしたいくせに」

「ぐっ……」

 なぜ言葉に詰まるのソラ。え、ソラもなの?

 本来の姿なら大歓迎だけれど、言葉のニュアンスからして多分違う。

 であれば、心臓の保全に尽力せねば!

「ここは必殺・転移魔法で逃走を……」

「り、リリ! オレに渡したいものって何? 目が覚めたから教えて」

 ジリジリ後退するより先に、ソラが私の腕を掴んできた。

 無理矢理に話題転換したのがまる分かりだ。私も全力で乗っかる!


「ソラ、ちょっとだけ屈んでくれる?」

「? 分かった」

 小首を傾げ、すぐに腰を落としてくれたソラの首に、空間魔法で出した白竜姫の泪のネックレスを掛ける。

 ソラにもよく似合っていて、とても格好良い。


「これ、リリの兄貴にあげてたやつ……」

「ソラにもあげる。御守りだと思って持ってて欲しいんだ」

「いいのか? 珍しいものっぽかったけど」

「うん。嫌じゃなければ、つけててくれる?」

「っ、嫌なわけない!」

「そっか、よかった。あとこれも」

 同じく空間魔法で取り出したのは、竜神妃様から貰った武装転換の指輪。

「魔道具なんだけど、人型の時に服を着てこれを指に嵌めておくと、本来の姿からまた人型になる時に同じ服を自動的に着られるの。あると便利でしょ?」

「こんなものまで……」

 しげしげと二つの魔道具を眺めるソラ。

 ふさふさの尻尾が興味深そうに揺れている。


「ふーん。シアちゃんに大事にされてるんだね、キミ」

 面白くなさそうな声を出したのはアイスくんだ。

「もちろんアイスくんにも白竜姫の泪を渡すつもりだよ。私の従魔だって言うなら貰ってくれるよね?」

「そうきたか。でもシアちゃんの分は? 他にもあげた人いないの?」

「私はいいよ。みんなが持っててくれてた方が嬉しいし」

「ダメ。ボクは要らない。イノリちゃんだって、シアちゃんに持ってて欲しいはずだよ」

「ぅ、そこを突かれると痛い……。でもイノリちゃんなら分かってくれる、と思う。多分」

「どうかなぁ。ああ見えてヤキモチ焼きだよ?」

 想像してきゅんとしてしまった私はイノリちゃん好き過ぎかもしれない。

「てことで、シアちゃんが持ってて」

「……じゃあ一旦、預かる。複製魔法が得意な人がいるから、増やせないか訊いてみるよ」


 リドくんとセリちゃんに一度頼んでみよう。

 恐らく難しい気はしているけれど。なにせ伝承級のレアアイテムだから。


「へー。そんな人いるんだ」

「うん。他にもお城の人をちゃんと紹介するね」

「楽しみにしておくよ」

 なぜか少し剣呑な光を瞳に滲ませるアイスくん。……意外と戦闘狂なの?

「リリ。この指輪、リリに嵌めて欲しい」

 ジッと指輪を見つめていたソラが、尻尾をブンブン振ってアピールしてきた。もの凄くご機嫌だ。

「いいよ。貸して?」

「ん!」

 ソラから指輪を預かり右手を手に取れば、途端に耳も尻尾もへにょんとなる。あれ?

「そっちじゃない」

「左手の方がいいの?」

「ここ」


 ――く、薬指。


「いやキミ、それはダメでしょ。大体、自分で言うことじゃないし」

「別にいいだろ」

 左手の薬指に指輪を嵌める意味は、この世界でも日本と変わらない。

 恋人もしくは夫婦関係の相手がいることを指す。

 贈った私にそこへ嵌めろと……!?


「えっと、」

「ダメなのか?」

「……ダメではない、けど。そこまで考えてなかったと言いますか……」

「ほら見なよ。シアちゃん困っちゃったじゃん」

 アイスくんが私の頭を撫でながら擁護してくれれば、ソラはアイスくんの手を叩き落として真剣に告げた。

「オレのこと少しでも好きでいてくれるなら、そこにして? それ以上は考えなくていいから」

「……、分かった」

 単純に好きか嫌いかなら、迷う必要はない。

 ソラの望む通り左手の薬指に指輪を嵌める。やっぱり気恥ずかしいぃぃ!


「ありがと。オレもリリのものだって証拠が出来た」

「えっ」

 今、何て?

「そ、ソラ?」

 恐る恐る呼び掛ける私にソラは柔らかく微笑む。なにその笑顔。

「これで竜弟だけじゃなくなったぞ。残念だったな」

 ソラまで確信犯だった!?

「うわー。そのドヤ顔、腹立つ。まあいいよ。ボクは魔人の兄さん公認だし」

「……は?」

「能力が認められたっぽい。ね、シアちゃん?」

「た、確かに」

 だけど公認と言っても護衛としてだよね……?


「……でもオレにはこれがある」

 徐に本来の天狼の姿へと変化するソラ。

 そのままもふもふボディーで私にすり寄ってくる。

「好きっ!」

 もはや条件反射で首に抱きつき埋もれれば、ソラがムフンと得意げに鼻を鳴らした。

 このモフモフ加減が溜まらない!

「やってくれるね。その挑戦受けて立つよ」

 頭上で鳴らされる対決のゴング。

 そんなに喧々しないでアイスくんもこのモフモフに埋もれれば和むのに、と魅惑のボディーを両腕で目一杯抱きしめながら思った。




 翌日。

 朝食を終え散歩でもしようと庭に出たところで、目を引く人物に出くわした。

 家庭教師であるミスティス先生だ。

「あれ? ミスティス先生。今日はソラの授業、お休みですよね?」

 ソラは今、ユイルドさんと訓練をしている真っ最中のはず。

 他に訪城する予定でもあったのだろうか。

 ちなみにアイスくんも朝の挨拶をしてくれるなり、ホムラくんと勝負の続きをするのだと出て行ったきりである。

 ぜひノイン参謀の雷が落ちない程度にして欲しい。破壊ダメ、絶対。


「リリシアちゃん……」

 私の顔を見るなり、なぜだか泣きそうな表情をするミスティス先生。

 普段見る事のない悲しげな先生に、嫌な予感が一気に募る。

「何かあったんですか?」

「ごめんなさい。私のせいで……」

 ミスティス先生は俯き、唐突に謝罪の言葉を口にする。


 この時、私は知らなかった。

 先生が昨日の庭での一件を機に、ウェンサ帝国で起きた一連の顛末を知ってしまった事を――。

第四章・完です。第五章に続きます。

長くなってきましたが、まだお付き合い頂けたら幸いです!

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