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171話 なるべくしてなった人

 いきなり登場した私に、お説教組が一斉に助けを求める目を向けてくる。但し、兄様を除いて。


「あの、ノイン参謀。お話があるので、お説教はその辺にして頂けないかと……」

「……そうですね。むさ苦しい男ばかりの顔も見飽きました。もう帰って結構です」

 いや超絶美形しかいませんよ。顔面偏差値満点ですよ。


 心の中でツッコミを入れている間に、解散を許された四人がゾロゾロと扉があるこちらに向かって歩いて来る。

「リリ、後で会える?」

 先頭を歩くソラがへにょんと垂れた耳で訊いてきた。めちゃくちゃ撫で回したいが耐えろリリシア!

「うん。渡したいものもあるし」

「じゃあ部屋で待ってるから!」

 ブンブン尻尾を振って元気良く出て行くソラ。その後をホムラくんとアイスくんも続く。

「リリちゃん、またっす……」

「ボクもシアちゃんの部屋にいるよ」

 二人ともお疲れ気味だ。ずっと人型でいるから余計だろうか。


「リリ。少し顔色が良くなったか」

 最後に兄様がするりと頬を撫でてくる。

 兄様だけは普段通り、何も変わらない。ノイン参謀に絞られ慣れているから……それもどうなの。

「母様の魔法でよく眠れたのと、キリノムくんの食事のおかげだと思います」

「そうか。あまり無理はするなよ」

 優しく私の頭を撫で、歩き出す兄様。部屋を出る直前、ノイン参謀を冷たく一瞥して行った。

 反省の余地なしと見做されますよ!


「それでお話というのは」

 ソファーを薦めてくれながら、ノイン参謀が切り出してくる。

 参謀も若干お疲れモードだ。

「あの、ナギサくんのことなんですが」

「彼が何か?」

「お給料とか予算を組んでくれてるって聞きました」

「正式採用されたのですから、当然だと思いますが」

「私が押し切ったからです。なので私が支払うべきかと……」

 言い終わらない内に、ノイン参謀の秀麗な眉間がみるみる寄せられていく。

 お、怒っていらっしゃる。


「失礼ですが、どうやって?」

「アルバイトをするとか、素材を集めて売るとかしてなんとか……。稼げなかったら最悪、私のお小遣いを回すつもりです」

 うちの国には一攫千金素材、魔石が採掘できる。魔道具の核となる魔力を込められる石で、輸出資源の一つでもある――のだが、残念なことに採掘権の関係で入手は難しそうなのだ。

 だから魔の森でレア度の高い魔花や魔草を探すしかない、と思っているのだけれど。

「はぁー……」

「溜め息!?」

 ノイン参謀に『疲労困憊』といった、もの凄い深い溜め息を吐かれた。


「せ、浅慮なのは重々承知していますが」

「いえ。貴方のお人好しぶりを甘く見ていた私が、浅はかでした」

「?」

「王が承認した以上、余計な気遣いは不要です。リリシア様にどうこうして頂こうなど、微塵も思っていません」

「でも予算がどうとか、兄様たちにお説教されてましたよね?」

 国の財政を握っているのはノイン参謀だ。

 不要な支出は避けたいはず。


「どこで聞かれたのか知りませんが、彼らには国税で生活しているという意識が余りにも欠如した行動を取るので、言ったまでです。要はただの注意喚起。本当に逼迫しているわけではありませんよ」

「それは、そうかもしれませんが……」

「ですから人間一人増えたところで、どうという事はない。リリシア様は何もされなくて結構です」

「しかし今日だって、お城にホームステイする人材を招きましたし」

「ああ。竜種の彼……確かアイシュクラスと言いましたか。話はディートハルト様から伺いました。彼なら軍備増強ということで問題ありません」

 どうやら従魔にしたことで、戦力としてカウントされたらしい。


 本当に、これでいいのかな。


「リリシア様。貴方は日頃、決して浪費をしたりはしないでしょう? むしろ倹約し過ぎだと言ってもいい」

「え、」

「身に着ける衣服や装飾品は全て陛下たちからの贈り物で、使うといえば天狼の彼の為など、人にばかり。ですから少しくらい我が儘を言ったって、よいのですよ」

 気にするな、と言外に匂わせるノイン参謀。

 私はフォローしてくれたその内容に、驚いてしまった。

「よ、よく御存じで」

「見ていればそれくらい分かります」

 ……執政で忙しいはずなのに、お城の人のことまでよく見てくれているんだ。

 頭が上がらないよ。


「お話がその事だけでしたら以上です。異論は受け付けません」

「……ありがとうございます」

 ソファーから立ち上がり、深く頭を下げる。

 ナギサくんのことだけじゃなく、色んなことも含めて感謝の気持ちでいっぱいだ。


「私も早く何かお役に立てるよう頑張ります」

「いえ、貴方はそのままで充分です。変わらずそのままでいてください」

「あ、アホでいろってことですか」

「ふっ」

「笑われた!?」

「すみません。あまりに神妙な顔で訊くものですから」

 声を抑えておかしそうに笑う、ノイン参謀。

 ……うん、まあ楽しそうだからいいや。


「そうだ。せめて肩をお揉みします! お疲れのようなので!」

「えっ」

 珍しく動揺する参謀の背後に回り、華奢な肩に触れる。

 キッチリと着こなした軍服越しに触れた身体は、思ったよりも筋肉質だ。

 おぉ、意外。ノイン参謀って武器を持つイメージが全くないけど、やっぱり鍛えてるのかな。


「自己治癒能力が高いとはいえ、少し凝ってますね」

「ちょ、そんなことしなくていいですから」

「あ。他人に触られるのダメな人ですか……?」

「え、ええ。陛下や……貴方も平気みたいですが」

 幼なじみとそれに似たDNAだから?

 ノイン参謀に浮いた話を聞かないのは、この体質のせいなのだろうか。

 特定の人しか接触NGなら、恋愛に発展するのは難しそうだ。

 潔癖――が理由なのかそうじゃないのか、分からないけれど。


「えっと、私は気持ち悪くない……です?」

「はい。貴方が小さな頃に頭を撫でた時も、大丈夫でしたし」

 そんな事もあったっけ。

 なら私に気を遣った、というわけじゃないよね。

「ですが陛下に知られたら死ぬほど面倒臭いので、お気持ちだけありがたく」

「ぅ……。そうですか」

 残念。少しでも参謀孝行ができればよかったのに。


「そんなに落ち込まないでください。というか、突然どうされたのですか」

「あの、怒らせたらすみません」

「はい?」

「私にとってノイン参謀はもう一人のお父さんみたいなものなので、何かしてあげたい! と思って突っ走りました。ごめんなさい」

 予想外の内容だったのか、ノイン参謀は目を見開いて固まってしまった。

 と思ったら、口元を覆って俯いてしまう。

「の、ノイン参謀?」

「ふふっ。ギルフィスが聞いたら、ショックで寝込んでしまいますよ?」

 肩を震わせ、くつくつと笑うノイン参謀。

 その反応には今度はこっちが予想外だ。


「……やはりギルフィスの側は飽きませんね」

 一頻り笑うとノイン参謀は姿勢を正し、真っ直ぐに私を見る。

「こんな冷血漢を父とまで慕ってくださり、ありがとうございます」

「……不快じゃない、ですか?」

「未婚のまま素晴らしい娘を得るなど、私にとっては僥倖の極みですよ」

 穏やかさを乗せたノイン参謀のセリフは、多分方便じゃない。

 やばい。嬉しい。


「ノイン参謀。一つだけ訂正が」

「? 何です?」

「ノイン参謀は冷血漢ではなく、クールビューティです!」

 思いっきり力説すれば、真顔で「違います」と即否定されてしまった。

 そういうとこだと思います。

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